“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、「筋力と姿勢の関係」について。本来、 筋力を測る目的を本当に達成するためには、「姿勢には厳格な注意を払わなければいけません」と石井直方教授。なぜならば、姿勢にも影響する体の各関節には、筋肉に最大の力を発揮させるための理想的な角度があるためだといいます。
運動中のパワー、スピードは腱の影響を無視できない
今回から数回にわたり、筋肉のもつ性質を掘り下げて考えていきます。まずは静的特性、つまり等尺性収縮(筋肉の長さは変わらずに力を出している状態)をしているときの筋肉の特性から始めましょう。
その前に、説明しておかなければいけないことがあります。
実際のヒトの動きや運動のなかには、厳密な等尺性収縮はありません。というのも、筋肉の両端は腱につながっています。この腱はヒモのような構造で基本的には伸びないのですが、それでも少しだけ伸びるようにできています。ハンカチをイメージするとわかりやすいでしょう。ハンカチの繊維も伸縮しませんが、縦横に織ってあるので斜めに引っ張ると少し伸びますよね。実は腱を形成するコラーゲンも、ハンカチと同じように斜めに走 っているのです。
ということで、スポーツのパフォーマンスや運動中に発揮されるパワー、スピードなどを考える場合、腱の影響というものは無視できません。最近では筋収縮を考える際に「筋腱複合体」という言葉が使われるようになり、筋肉と腱をまとめて特性を考えようという傾向も強くなっています。
とはいえ、いきなり筋腱複合体の複雑な運動といっても理解するのが大変です。上記を理解していただいた上で、ここでは筋肉そのものの特性に的を絞って考えていきます。
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