“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は筋肉が生み出す「力」「エネルギー」「パワー」の違いとついてご紹介します。
「力」「エネルギー」「パワー」の違い
「エネルギー」と「力」という単語は、世間で混同されているケースが多いようです。
例えば、背筋力計を思いきり引いているとき。顔を真っ赤にしてブルブルと震えていると、いかにもエネルギーを使っていると誤解されがちです。確かに、これは力は出しているけれども、エネルギーを発揮していることとは違います。筋肉が発揮する力学的エネルギーとは、「ある力をどのくらいの距離にわたって作用させたか」ということ。専門用語ではこれを「仕事」と呼びます。
仕事を求める式は「力(F)× 距離(x)」。物を持つ場合も、ただ支えているだけでは仕事にならず、「重さ(W)」× 重力加速度という力を「距離(x)」だけ持ち上げることで初めて、その積であるエネルギーを筋肉は発揮した、あるいは消費したということになります。
力には、目に見えないものも含まれています。前述の背筋力のように、筋肉が力を出していても物が動かないということがあるわけです。一方、力学的エネルギーを発揮するためには、外から見てもわかる「動き」をしていないといけません。
この理屈をしっかり踏まえておかないと、筋肉が収縮したり、筋トレを行ったりしたときに、どのようにエネルギーを使うかということを見誤ってしまいます。筋肉が大きな力を出すということと、大きなエネルギーを発揮するということとは、完全な別ものとして考える必要があるのです。
続いて、「パワー」(力学的パワー)という言葉について説明しましょう。パワーとは自動車のエンジンの馬力と同じで、一定の時間に筋肉が発揮する力学的エネルギーのこと。一瞬で強い力を求められるスポーツにおいては、これが非常に重要です。少し難しくなりますが、パワーは、「力× 動いた距離」を時間微分したもの、つまり時間当たりの距離です。距離を時間微分したもの(時間当たりの距離)は速度ですので、一定の力を発揮している場合には、「力× 速度=パワー」という計算になります。
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