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“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

「楽をしたら強くなれない」は生理学的にも正論だった

第53回 メカニカルストレスの重要性

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

楽なトレーニングでは決して筋肉は強くならない

 一般の人はもちろん、スポーツ選手や指導者にも、歯を食いしばるようなトレーニングをせず、できるだけ楽をして身体を強くしていきたいという考えがあるかもしれません。あるいは、重いものを持つとケガをする危険性が高くなるので、それを避けたいという意見もあるでしょう。

 私自身、長年トレーニングをしてきた経験から、楽をして強くなりたいと思う気持ちはよくわかります。しかし、残念ながら、その発想は根本的に間違っていて、楽をして強くなるというのは実現不可能な望みなのです。

 これだけヒトの身体に関する研究が進み、トレーニング科学が発達してくると、ともすれば必死にトレーニングをしなくても筋肉を肥大させることが可能なのではないか、テレビを見ながら筋肉を動かしていても強くなれる方法があるのではないか、という錯覚を起こしがちですが、そんな夢のような方法は今のところ見つかっていません。

 「楽をしたら強くなれない」というのは昔の指導者の意見であり、根性論であるかのような印象を受けるかもしれません。しかし、これは生理学的にも正論です。なぜなら、身体が強くなる理由は、身体を強くしなければならない状況になったからであり、そういう状況に追い込まれたときに初めて生理学的適応が起こるからです。それが生物の基本的な仕組みなので、その仕組みを省略するという考え自体、無理があります。

 私は高齢者でも筋力トレーニングができるように、軽い負荷を使うことで身体の負担を軽減する『スロトレ』などを研究しているので、楽に強くなる方法を知っているのではないかと勘違いされることがあります。しかし、決してそんな方法はありませんし、むしろ自分の経験から、それが不可能であることをよくわかっています。

 やはり強くなるには、それにふさわしい刺激が必要であり、その苦しさを乗り越えた先に、身体が変化するという喜びが待っているのです。これは選手やコーチにとって、絶対に必要な考え方だといえるでしょう。

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