“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、筋トレをする上で最も重視すべき「メカニカルストレス(力学的な刺激)」について見ていきます。筋力をアップするには、それにふさわしい刺激が必要です。「楽をして強くなりたい」と思うのは誰しも同じですが、残念ながらそれは実現不可能な望みなのです。
メカニカルストレス抜きに筋力トレーニングは語れない
筋肉が強く太くなるには「メカニカルストレス」「代謝環境」「酸素環境」「ホルモン・成長因子」「筋線維の損傷・再生」という5つの要因があることを第48回で説明しました。そのなかでも、筋力トレーニングをする上で最も重視すべきなのはメカニカルストレスです。
メカニカルストレスとは力学的な刺激のことですが、筋力アップや筋肥大を目的とする場合、やはり負荷強度を中心に考えなければいけません。これは筋力トレーニングの知識が確立されていない時代から変わらないことで、軽いものを持ち上げても筋力がつかないことは誰でも経験的にわかるでしょう。また、これまでに行われてきたさまざまな研究においても、メカニカルストレスによって筋力アップや筋肥大が起こったというエビデンスは数多くあるので、メカニカルストレスを抜きにして筋力トレーニングは語れないという路線ができています。
ごく最近の研究では、必ずしもメカニカルストレスが強くなくても筋肉を成長させる方法があることがわかってきていますが、最終的に筋肉に強く、大きなパワーを発揮させることがトレーニングの目的である場合は、やはり負荷強度の低いトレーニングをしても意味がありません。大きなパワーを出すトレーニングを繰り返し行うことで、さらに大きな力が出るようにしていくのが最もオーソドックスなやり方であり、それを崩してはいけないのです。