日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

筋収縮の「形態」を変える4つの動き

第6回 トレーニングの現場で最も使われている方法は?

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、筋収縮の形態について。筋が収縮する形態は、与えられた負荷に応じて性質が違う4つあるといいます。その測定方法とメカニズムについてご紹介します。

筋の特性を調べることは簡単ではない

 筋収縮とは、筋肉が中心方向に向かって力を出すこと(前回記事:『筋肉は1方向にしか縮まない!? 「筋収縮」の仕組み 』を参照)。縮みながら力を出すわけですから、筋収縮の状態を表すためのパラメータは、「力」と「長さ」になります。この2つが時間とともに変化していくこと、それが筋収縮の本質です。

 理屈は単純なのですが、力も長さも時々刻々と変わるので、筋の特性を調べるのは実際はそれほど簡単なことではありません。そこで、筋肉の置かれている条件を単純化することにより、筋力や筋長を測る方法がいくつかあります。

筋肉の収縮は、与えられた負荷に応じて4つの形態を作り、筋からの出力を生みだす。(©lanak-123rf)
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「等尺性収縮」は筋肉の両端を固定して測定する

 その方法の1つ目は等尺性収縮。

 前回でも解説しましたが、握力や背筋力を測るときのように、筋肉の両端が固定された状態にします。そうすると筋肉の長さが変わらないので、時間とともに変化する力を測定すればいいという単純な測定方法になります(2ページ目の図参照)。

 これは、握力計や背筋力計で発揮される最大筋力が高い人は、物を持ち上げる力や動きのなかで発揮する力も強い、という前提で計測されています。しかし、現実にはそれはイコールではありません。例えば、背筋力計で200kgの数値が出たとしても、200kgのバーベルをデッドリフト(*1)で持ち上げるのは無理でしょう。おそらく1RM(1回だけ上げられる重さ)は170kgほどに落ちると思われます。等尺性収縮はわかりやすい測定の方法なので伝統的によく使われていますが、必ずしも運動のなかで発揮される正確な力を測定できるわけではないのです。

(*1)股関節と膝を曲げて背すじを伸ばした姿勢から、床に置いたバーベルを引き上げ上体を起こしていく

「等張力性収縮」は滑車とケーブルを使い負荷を一定にして測定する

 2つ目は、等張力性収縮。

 これは等尺性収縮とは逆で、筋肉が出す力を一定にする方法です。一番簡単なやり方は、プーリー(滑車)を介したケーブルを使って負荷を引いていく。プーリーによって関節の角度にかかわらず筋肉にかかる負荷が一定になるので、ケーブルを一定の速さで引き上げれば、理論的には等張力性収縮が成立します(下図の上から2つ目)。

 しかし、これにも問題はあります。負荷が動きだしたあとは速度を一定にすることもできますが、速度ゼロの負荷を動かし始めるときは、慣性に逆らって負荷を加速しなければいけない。つまり、最初に発揮する力はどうしても大きくならざるを得ません。また、筋肉には長さに応じて筋力が変わるという特性があるため、筋肉の収縮が進むに従って最大筋力も時々刻々と変わってしまいます。この理由によっても、筋肉にかかる負荷は必ずしも一定ではなくなります。ということで、見かけは等張力なのですが、筋肉の立場からすると、常に同じ条件ではなくなってしまうわけです。

 本当に正確な数値を測るためには、負荷が一定になるようにモーターでコントロールしたり、筋力が途中で変わらないようにごく短い収縮範囲の間で性質を調べたりするなどの厳密な条件が必要になり、実験手法としては非常に難しいものになります。

イラスト/田中祐子
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「等速性収縮」は一定の速度をかけて測定する

 3つ目は、等速性収縮。

 実は筋肉には、一定の負荷をかけるときに、その張力も一定に保たれていれば、筋が同じ速度で収縮するという特性があります。70年ほど前に報告されているこの性質を利用して、モーターなどを使って外側から筋肉が縮む速度を一定にすると、ある一定の速度下において筋肉が発揮できる力を測ることができます。逆の見方からすると、ある筋力を発揮するときに筋肉が出せる速度を測っているのと同じことになります。この方法は一定の速度でモーターを動かせばいいだけなので、等張力性収縮の測定よりずっと簡単です。

 ところが、これにもいろいろと制約があります。

 「速度を一定にして力を測る」ことと、「力を一定にして速度を測る」こととは厳密には1:1にはならず、たとえ速度を一定に制御しても筋肉が出す力は変化しています。ということで、等速性収縮はあくまでも簡便的なものであり、筋肉そのものの性質を詳細に調べるのにはあまり向いていません。とはいえ、理想の条件ではないまでも比較的簡単に筋肉の情報を得ることができるので、トレーニング科学の分野ではこの等速性筋力計が主に使われます(2ページ目の図参照)。

「増張力性収縮」は筋肉を短くさせながら負荷を高めて測定する

 4つ目は、増張力性収縮。これはバネやゴムのようなものを引っ張るときのように、時間の経過とともに筋肉が短くなる一方、筋肉にかかる負荷が次第に大きくなるという条件において測定します。バネやゴムは伸びに比例して弾性力を発揮するので、それらを伸ばせば伸ばすほど筋肉が発揮する力も増えていきます。こうした筋力測定はあまり使われない方法ですが、トレーニングとしてはよく行われていますね。チューブトレーニングや、昔流行したエキスパンダーなどが代表的なものです(2ページ目の図参照)。

 以上、4つの筋収縮の形態を説明してきましたが、トレーニング現場で最も多く使われているのは等張力性収縮です。プーリーを使って負荷を持ち上げることはもちろん、バーベルを使ったメニュー、自重負荷を使った腕立て伏せや懸垂なども、負荷は一定なので見かけ上は等張力性になります。こうしたトレーニングのことをアイソトニックトレーニング(等張力性トレーニング)と呼びます。

 ただし、プーリーなら問題ないのですが、フリーウェイトを使う場合は動作とともに負荷が変わってしまいます。ダンベルカールが最もわかりやすい例ですが、ダンベルが下にあるときはほとんど負荷がかかりません。持ち上げるに従ってテコの原理で負荷が大きくなり、前腕と床が平行になるポイントをピークとして、また軽くなっていきます。その繰り返しで負荷が常に変動しているので、厳密な意味でのアイソトニックトレーニングとはいえませんね。

(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。