拮抗筋はもともとアンバランス
では、そもそも拮抗筋同士はバランスがとれているのでしょうか。実はそうでもありません。なぜなら前回(関連記事:『筋肉の出力を決める関節という「変速器」』)も説明したように、屈筋はスピードや可動域重視の、伸筋は相対的に力重視型の構造をしているからです。
例えば、膝の屈曲筋力は伸展筋力の50~60%といわれています(一般人の最大筋力で計測した場合。筋力差はありますが、太さはほとんど変わりません)。ごく普通の生活をする上では、それだけの差があっても問題はありません。
しかし、スプリンターやジャンパーとなると話は別。前述のように非常に大きなパワーを下半身が発揮するときには、大腿四頭筋とハムストリングスが協調して収縮する仕組みがあるので(股関節が外れないように調整。また、ハムストリングスには膝関節を屈曲するというだけでなく股関節を伸展させる働きがあるため)、ハムストリングスが5~6割しか力を発揮できないという状況は好ましくありません。
その筋力のままで競技を続けていると、大腿四頭筋の力に耐えられずにハムストリングスが肉離れを起こしてしまったり、もっと重度の障害が起こったりする可能性もあります。ですから、スプリンターやジャンパーは筋力トレーニングによってハムストリングスの強化を図ります。その結果として、外観的にはハムストリングスのほうが大腿四頭筋よりも太くなります(正確には、ハムストリングスだけでなく、内転筋も含めた「脚の裏側の筋肉」が太い場合が多い)。一流選手を見ると、太ももの裏側が非常に発達しています。そうする脚を作り上げることによって、彼らは拮抗筋のアンバランスを調整しているわけです。
(構成:本島燈家)
東京大学教授
