“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。前回は、トレーニングによって筋肉のタイプが変わる可能性があることを紹介しました。では、トレーニングの仕方によって、筋肉のタイプは具体的にどう変わるのでしょうか。また、筋肉のタイプが変化するのに、どのくらいの時間がかかるのでしょうか。
どんなトレーニングでも筋線維は持久性の高いほうへシフト
速筋線維のIIxは、持久的なトレーニングをすることで、より遅筋線維に近いIIaにシフトしていきます。ヒトの場合は、そこからタイプIにシフトするという報告はありませんが、動物ではタイプIまでシフトしてしまう、ということを前回お話ししました。
では、持久的なトレーニングではなく、筋力や瞬発的な能力を高めるトレーニングを行った場合はどうなるでしょうか。例えば、ウェイト・トレーニング。筋肉を太くするために大きな力を単発的に出すということを繰り返した場合、上記とは逆に、遅筋線維が速筋線維のほうへシフトすることはあるのでしょうか。
結論からいうと、それは起こりません。
動物にレジスタンストレーニング(筋トレ)をさせることは難しいので、ヒトの筋肉を採取(バイオプシー)して調べられた研究が、いくつかあります。そして、そのほとんどがタイプIIxからIIaに移行するという結果を示しています。つまり、持久的なトレーニングをしたときと同じ変化が起こるのです。
アメリカのある研究報告によると、投てきなどのパワー系の競技選手、それもオリンピックレベルのトップアスリートの筋肉を調べたところ、IIxに分類される筋肉がほとんどなく、ほぼすべてがIIaになってしまっていたそうです。一般人の場合、IIxとIIaとの比率は1:1~1:2といわれていますが、トップアスリートはIIxがゼロに近いのです。そのくらい、持久的能力をもったIIaに変わってしまっているのです。
ということで、筋線維は基本的にどんなトレーニングをしても、よりスタミナのあるほうへシフトしていく、と考えていいでしょう。
その理由として考えられるのは、トレーニングの量です。パワー型のアスリートも、スプリンターも、勝つためには長時間のトレーニングをこなさなければなりません。たくさん走り、たくさん跳び、たくさん投げないといい選手にはなれないからです。
1回1回の動作は瞬発系ですが、何度も繰り返すということは、結果的に持久的能力も必要になります。また、ある程度のスタミナをつけておかないと、試合で勝ち抜くこともできません。ですから、筋肉の持久性は自然に高まるのだと考えられます。
ボディビルダーのように筋肉を鍛えて太くする場合も、普段のトレーニングでは筋肉をいかに疲労困憊まで追い込むか、ということが重要なファクターになります。すると当然、筋肉は太くなりながらスタミナも併せもつタイプへと、変わっていくわけです。
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