平行筋はスピードはありますが、どうしても羽状筋に比べると力で劣ってしまいます。冒頭の車の例でいうと、平行筋はレーシングカータイプ、羽状筋はブルドーザータイプのエンジンということになるでしょう。このように、体の中で筋肉が要求されている仕事、役割に応じて、筋肉の構造自体にも違いがあるのです。
伸筋は羽状筋、屈筋は平行筋が多い
羽状筋の例として一番わかりやすいのはカニの爪です。食べる時に見てみても、1本1本の筋線維が非常に短いですよね。それが爪の中にぎっしり詰まっているので、カニが物を挟む力は極めて強い。一度挟んだら、なかなか離れません。そうした強い力があるわりには、速いスピードではさみを動かすことはできません。これぞまさしく羽状筋の特徴です。
人の場合は、「四肢の伸筋には羽状筋が多く、屈筋には平行筋が多い」という傾向があります。例えば、ふくらはぎの腓腹筋は典型的な羽状筋。羽が両側に開くようにハート形をしているのが外観からもわかりますよね。大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)も羽状筋です。それもかなり角度が深い羽状筋で、大きな力を出すために最適の構造をしています。
一方、いわゆる“力こぶ”を作り出す上腕二頭筋は代表的な平行筋。太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)は構造的には羽状筋なのですが、羽の傾きが非常に浅く、平行筋に近い羽状筋といえます。足関節を伸ばす腓腹筋(ひふくきん)に対し、つま先を上げるために働く前脛骨筋(ぜんけいこつきん)も羽状角がせまい羽状筋です。
このように腕や脚を伸ばすための筋肉は「力」に重点が置かれ、曲げるための筋肉は「スピード」「動作の大きさ」に重点が置かれている、という設計がなされています。そして意外かもしれませんが、人間の体全体で見ると、平行筋の数は少なく、羽状筋のほうが圧倒的に多くなっています。一般的なイメージとして、平行筋こそが典型的な筋肉のように思いがちですが、実は人間の体の中の勢力としては、羽状筋のほうがはるかに巨大なのです。
(構成:本島燈家)
東京大学教授

