“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。新しいトレーニング法や筋トレのやり方が紹介されると、マスコミなどが「これだけやっていればOK」などと喧伝することがあります。しかし、実際には、一つのトレーニングで、筋力もパワーも持久力もつくなどという“万能なトレーニング”はないのだそうです。
1つのトレーニングでは1つの効果しか上がらない
トレーニングの教科書には、古くから「特異性の原則」というものが書いてあります。これは、あるトレーニングを行った場合、そのトレーニングに対しての効果しか上げることができないということ。つまり、トレーニングの刺激には特異性があるという原則です。
筋持久力を高めるトレーニングを行えば筋持久力は高まりますが、筋力やパワーは向上しません。筋力やパワーのトレーニングであれば、筋持久力の向上は期待しないほうがいいということになります。
ところが、そうした特異性の原則の打破を期待する声は、いつの時代にもあります。筋力もつく、パワーもつく、筋持久力もつく、そんな万能薬のようなトレーニングがあるのではないかと。しかし、そうしたトレーニングの出現は、生理学的に見ても考えにくいことなのです。
例えば、スプリント能力と全身持久性というのは両極端な能力になります。ですから、オリンピックのスプリンターは、マラソンでトップの成績を収めることはできません。逆にマラソンランナーが100mを全力で走っても、一般の人よりは速いかもしれませんが、トップレベルには遠く及びません。
このように全身の生理機能をすべてトップにもっていくことは、非常に困難なのです。
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