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“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

マラソン向きの筋肉は、生まれつきか?

第26回 トレーニングで筋肉のタイプが変わる可能性もある

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

 ただ、移行が起こるといっても、1つの問題はI型とII型との溝。ヒトを対象にした研究では、遅筋線維と速筋線維との間にはどうしても越えられない溝があるといわれています。例えば、スタミナの必要なトレーニングをすれば、IIxはよりI型に近いIIaにシフトしていきます。しかし、IIaがI型にシフトするかというと、今のところそうはならないとされています。I型とII型とには決定的な差異があり、速筋線維→遅筋線維、遅筋線維→速筋線維という変化はヒトの場合は起こらないというのが定説となっているのです。コミ(Komi)という生理学者が1976年に発表した有名な論文では、「一卵性双生児は全く同じ筋線維組成をしている」という研究結果が報告されています。この論文も、I型とII型との比は遺伝子によって決定していて、運動で大きく変わるものではない、という説を後押ししています。

 いろいろなスポーツでヒトの筋線維組成を調べると、マラソンなどの持久的な能力が必要な競技選手はI型が多く、スプリンターなどはII型が多いという報告があります。長年のトレーニングによってそうなったのか、それとも生まれつきそういう筋線維組成だったから、そういう競技のトップ選手になれたのか。本来はそういう2つの可能性があるわけですが、現在のところ「生まれつき、その競技に向いた筋線維だった」という解釈を覆す研究報告は出てきていません。

動物実験ではI型←→II型のシフトが起こる

 ところが、動物で実験をすると、II型からI型への移行が容易に起こってしまいます。有名な実験としては、ウサギの筋肉に電極を埋め込み、一定の周波数で刺激を与え続けると(クロニック刺激)、1ヵ月ほどで白かった速筋線維が真っ赤な遅筋線維に変わってしまったというものがあります(図)。

図 ウサギの速筋をクロニック刺激した場合に起こる、遅筋線維への経時的タイプ変換
[画像のクリックで拡大表示]

 動物実験で起こったことは、ヒトでも起こる可能性が高いと考えるのが自然でしょう。ですから、ヒトで筋線維の変化が起こるかどうかという問題も、本当のところは結論が出ていないといえます。2~3ヵ月という範囲では変化しないかもしれませんが、5年、10年というスパンで本格的なトレーニングを続ければ、目に見える変化が起こるかもしれません

 遅筋線維が多いマラソン選手も、必ずしも生まれつきそうだったという保証はなく、長年のトレーニングのたまものである可能性もあります。ですから、自分は生まれつきマラソンが苦手なんだと諦めてはいけない。努力によって、筋線維組成が変わっていく可能性はあるのです

 ただ、遅筋線維を速筋線維にできるかというと、これは現状では難しそうだと考えられています。

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