日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

赤い筋肉と白い筋肉は何が違う?

第25回 赤みを帯びているのは遅筋線維、白い筋肉は速筋線維

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、筋肉の色の違いについて見ていきます。実は筋肉には、赤っぽい色をしているものと、白っぽい色をしているものがあります。この2つは何が違うのでしょうか。

赤い色の正体はミオグロビンとミトコンドリア

 今回のテーマは筋線維の色。前回、筋線維の分類について説明しましたが、大まかに分けると、速筋線維は白っぽい色をしているため別名「白筋」、それに対して遅筋線維は赤みを帯びているため「赤筋」と呼ばれています。

 このような色の違いが生まれる主要な要因は、筋肉の中に含まれているミオグロビンというタンパク質にあります。

 赤血球の中にはヘモグロビンというタンパク質がありますが、これは四量体と呼ばれる構造をしていて、4つの酸素を結合させて、肺から全身へと酸素を運ぶ役割を担っています。一方、ミオグロビンの役割は、ヘモグロビンが運んできた酸素を筋肉の中に運ぶこと。ミオグロビンは、ヘモグロビンの4つのユニットを解体した1つと非常に形状が似ていて、1つの酸素と結合しやすいという性質をもっています。

 ヘモグロビンには、二酸化炭素の多いところに行くと、くっついている酸素が離れやすくなるという性質があります。そして、ミオグロビンは、ヘモグロビンよりも酸素に対する親和性が少し高いため、ヘモグロビンから酸素を譲り受けるということが起こります。酸素をどんどん取り込むタンパク質ですから、当然、有酸素性の代謝活性が優れている遅筋線維に多く含まれています。

 ヘモグロビンやミオグロビンは鉄分を含んでいます。赤い色というのは実は鉄の色。しかも、これらは酸素と結合すると、より赤みが増すという性質があります。

今後、筋繊維タイプを調べるさまざまな方法が考案される可能性もある(©PaylessImages -123rf)
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 酸素を譲り受けたミオグロビンは、それを筋線維の細胞の中にあるミトコンドリアという小器官に運搬します。ミトコンドリアは筋肉のエネルギーを作っている器官ですが、ここにも赤色をしたチトクロームという色素がたくさん含まれています。

 遅筋線維はミオグロビンが多い上に、ミトコンドリアも多いので、全体として赤みが強くなっている。それに対して、速筋線維にはミオグロビンがあまり含まれていません。そのため赤みを帯びることがなく、白っぽい色になるわけです。

筋線維タイプの移行は色に素直に表れる

 筋線維の中に赤や白ではない、ピンク色をしたものもあります。これは、ほどほどにミオグロビンを含んでいるため、中間のピンク色になっていると考えられます。

 前回の分類でいうと、タイプIが赤い筋線維、タイプIIxが白い筋線維、タイプIIaがピンク色の筋線維ということになります。

 ヒトの筋線維は、タイプごとに1カ所に集まっているわけではなく、チェッカーボード状に存在しているため、「これは赤い筋線維」「これは白い筋線維」と、完全に色分けができるわけではありません。筋肉全体として赤っぽいかな、白っぽいかなという程度の違いです。

 しかし、魚などは種類によって筋線維タイプの境目がはっきりしているものもあります。例えばブリの切り身を見ると、赤い部分と白い部分とが完璧に分かれていますが、あれもヒトと同じで赤い部分が遅筋線維、白い部分が速筋線維です。また、魚の筋肉の生理学では、昔から「ピンク筋」という用語が使われていました。白筋、赤筋、ピンク筋という分類が伝統的に行われていたのです。それくらい、魚の筋線維はタイプが明確に分かれているといえるでしょう。

 前回でも少し説明したように、筋線維タイプはトレーニングやディトレーニングによって、ほかのタイプに移行することがあります(詳しくは次回以降に説明します)。そして、どの程度の筋線維タイプが変化したかというのは、色に素直に表れます。

 前述のブリの場合、日本食で普通に食べられている養殖ものは、白みが強く脂が乗っています。これは速筋線維が豊富だからです。それに比べて、高級食材と考えられている天然もののブリは、少しピンクっぽい色をしています。これは広い海をよく泳いでいるために、筋肉がしっかり使われて、ミオグロビンやミトコンドリアが増えている状態。つまり、遅筋線維方向への移行が進行した状態なのです。

筋線維タイプを調べる方法

 余談になりますが、自分自身の筋線維タイプがどうなっているのかを知りたい人は多いと思います。ヒトの筋線維組成を調べるには、筋線維を採取(バイオプシー)する方法が基本ですが、これは倫理的な問題で日本では実施が難しいのが現状です。ただ、バイオプシー以外にも方法がないわけではありません。

 私の研究室では、筋肉を電気刺激したときの反応の違いから、タイプを推測するという方法で研究を行っています。何%という数字を明確に導き出すのはまだ難しいのですが、全体として速筋タイプなのか遅筋タイプなのかを判断することは可能です。

 もう1つ、筑波大学の研究室ではMRIによってタイプを調べるという方法が行われています。遅筋線維は脂肪をエネルギー源として使っている割合が大きいため、速筋線維より細胞内の脂肪の含有が多い。それをMRIで映し出そうという試みです。

 今のところ、バイオプシー以外の方法はこの2種類のみ。ですが、筋線維タイプを調べたいというニーズはスポーツ界などで高まっていると思われるので、今後はまた違った方法が考え出されるかもしれません。

ヘモグロビンやミオグロビンは鉄分を含んでいる。
遅筋線維の赤い色というのは実は鉄の色。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。