メカニカルストレスの常識は変わりつつある
しかし、その後にわかってきたことは、速筋線維をフルに使うという条件で考えたとき、必ずしも80%という負荷強度でトレーニングをしなくても同じ状況をつくることは可能だということです。
典型的な例としては加圧トレーニングが挙げられます。筋肉をベルトで締めつけることで筋肉はあっという間に疲労し、速筋線維が早い段階で使われるようになります。
筋肉の張力を維持しながら動くスロートレーニングでも、同じことが起こっていると考えられます。私たちの研究でも、スロートレーニングの最後のほうでは速筋線維が使われていることを確かめています。このように、やり方によって80%1RMという負荷を使わなくても筋肉が太くなることは、現在では新しい常識となってきています。
また、力を出しながら筋肉が引き伸ばされるエキセントリック(伸張性収縮)を利用することも、強い力を出さずに速筋線維を使う方法の1つです。
さらに、最近の研究では、軽い負荷であっても筋肉が疲労困憊に追い込まれるまで動作を繰り返せば、やはり速筋線維が使われやすくなるということがわかっています。
ただ、すべてのメカニカルストレスにいえることは、1回や2回の刺激では不十分だということ。ある一定時間、あるいは繰り返し力を発揮することによって、筋肉にたくさんのエネルギーを使わせないと、筋肉を太くするほどの刺激にはなりません。これは「代謝環境」に関わる問題です。この代謝環境も、メカニカルストレスとともに筋肥大の重要な要因であると考えられます。
80%1RMという負荷を使わなくても、
やり方によって筋肉が太くなることは、
現在では新しい常識となってきている。
(構成:本島燈家)
東京大学教授

日経Goodayのサイトでご紹介している「“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学」の連載が本になりました。
筋肉の基本的な仕組みから、理想的なトレーニング方法まで、専門的に解説。
全国の書店、またはベースボール・マガジン社サイトでお買いお求めください。
こちらからでもご購入いただけます
⇒ベースボール・マガジン社 商品検索&販売サイト
