“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回も、前回に引き続き、筋肉を成長させるメカニズムについて見ていきます。筋肉を太くするには、80%の負荷でトレーニングをするというのがこれまでの常識でした。しかし、近年の研究によって、別のやり方でも太くできることがわかってきました。そのカギを握るのが「速筋線維」です。
筋肉が太くなるための5つの要因
前回は「タンパク質代謝系」のメカニズムについて説明しました。現在の筋肉研究は、タンパク質を合成する工場(リボソーム)の中で働くmTOR(エムトール)という物質に注目が集まっているということもお伝えしました。
ただ、研究する立場としては、本当はもっと上流の刺激を知りたい。工場で何が起こっているかはわかりつつあるのですが、トレーニングを行ってから工場を刺激するまでの間に何があるのかは、詳しくわかっていないのが現状なのです。
トレーニングをしたり、力を出したりすると筋肉が太くなる、というわかりやすい現象は確かに存在しています。しかし、研究者としては、そこの部分の解明が一番難しいもの。つまり、筋トレの「何が」筋肉を太くするのかがわからないのです。
それがわかれば、筋トレそのもののやり方も劇的に変わってくる可能性があります。「何が」の正体を突き止められれば、それを一番強く刺激する方法を行うことで、筋肉は一番太くなるはずだからです。
とはいえ、完全に解明されていないなかでも、「何が」の候補はあります。上の図がそれで、「メカニカルストレス」「代謝環境」「酸素環境」「ホルモン・成長因子」「筋線維の損傷・再生」という要因が複雑に絡み合っていると考えられています。これらの複合効果によって筋肉は太くなっていく可能性が高いのですが、何がどのように働いているのか、まだ結論を出せる段階ではありません。
今回は、上記5つのなかで特に大事だとされているメカニカルストレスについて説明していきましょう。