日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様

日経 Gooday

ホーム  > スポーツ・エクササイズ  > “筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学  > 急ブレーキをかけるようなトレーニングは、筋肉には逆効果  > 2ページ
印刷

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

急ブレーキをかけるようなトレーニングは、筋肉には逆効果

第47回 筋肉を成長させるメカニズム(2)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

筋肥大のキーファクターmTORとは?

 歴史的な経緯からいうと、まずセンチュウという虫にラパマイシンという抗生物質を与えたところ、成長が止まることがわかったのが始まりでした。その要因を調べてみると、ラパマイシンによって発現が抑えられてしまうタンパク質が見つかりました。それをTOR(ターゲット・オブ・ラパマイシン)と呼びました。

 TORは、ラパマイシンが結合するとその機能を失い、成長を抑えてしまうので、身体を発育させる上で非常に重要なタンパク質ということになります。そのTORは哺乳類(マンマリアン)の細胞にもあり、同じように細胞や生物が成長するためのキーファクターになっているらしいということがわかり、それをmTOR(マンマリアン・ターゲット・オブ・ラパマイシン)と呼んだのです。

 その後、筋肉にトレーニングの負荷を与えると、mTORがリン酸化される(タンパク質にリン酸がくっつくと活性化し、リン酸が外れると不活性化する)ことが判明しました。mTORのリン酸化は周辺の化学反応も誘発し、その結果、タンパク質を合成する最終段階である翻訳活性が高まります。その事実が発表されて以来、筋トレと筋肥大との因果関係をつなぐのはmTORだと、多くの科学者が考えるようになりました。そして現在に至るまで、筋肥大に関する研究は多くがmTORをテーマにしたものとなっています。もちろん私の研究室でも、mTORに関連したさまざまな研究を行っています。

mTORの研究が進むと筋トレの常識が変わる?

 mTORがリン酸化される反応が進むと、逆にタンパク質の分解を抑えるほうの活性も上がることもわかっています。つまり、リボソームでのタンパク質の合成が上がると、なかば自動的にタンパク質の分解が下がる仕組みが働きます。その結果として、タンパク質の量が増えてくることになるわけです。ということで、mTORのリン酸化を進行させるような運動やトレーニングをすることが、筋肉を効果的に肥大させる刺激になるだろうと現在は考えられています。

 私たちの研究グループで行った例としては、エキセントリックトレーニング(力を発揮しながら負荷を下ろす)をネズミに行わせるという実験があります。例えば、力を出させた状態でゆっくり筋肉を引っ張るスロートレーニングをさせると、mTORのリン酸化が上がり、タンパク質の合成が高まります。ところが、力を出しているときにギュッと素早く過激に引っ張ると、逆にmTORのリン酸化が下がり、タンパク質の分解が進んでしまうことがわかりました。つまり、急ブレーキをかけるような過激なエキセントリックの刺激を繰り返すことは、筋肥大にはマイナスにもなりかねないということになります。

 このように、ちょっとした筋肉の使い方で、mTORの状況は変わってくるようです。ちょうどいい刺激であれば合成が上がりますが、やり方が悪いと合成が下がり、分解が上がってしまう。ヒトの身体の中でも、そういう変化が割に容易に起こっていると考えられます。

 mTORに関する研究はまだ進行中ですが、そのデータを手がかりに調べていくと、より効果的なトレーニング法がわかってくるのではないかと期待しています。もしかすると、筋トレの常識が変わってくる可能性もあるかもしれません。

急ブレーキをかけるような
過激なエキセントリックの刺激を繰り返すことは、
筋肥大にはマイナスにもなりかねない。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
“筋肉博士”石井直方先生の連載が1冊になって好評発売中!
『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

 日経Goodayのサイトでご紹介している「“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学」の連載が本になりました。

 筋肉の基本的な仕組みから、理想的なトレーニング方法まで、専門的に解説。

 全国の書店、またはベースボール・マガジン社サイトでお買いお求めください。

こちらからでもご購入いただけます
ベースボール・マガジン社 商品検索&販売サイト


この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。

先頭へ

前へ

2/2 page

RELATED ARTICLES関連する記事

スポーツ・エクササイズカテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • かかると怖い!「膵炎」「膵がん」

    激痛に襲われる「急性膵炎」や、発見しにくく5年生存率が極めて低い「膵がん」など、膵臓の病気には厄介なものが多い。今回は、膵臓という臓器の役割や、膵臓の代表的な病気である「膵炎」「膵がん」の怖さ、早期発見のコツをまとめていく。

  • 60代以降で急増! 男を悩ませる前立腺の病気

    中高年にさしかかった男性にとって、病気が心配になる臓器の1つが「前立腺」だ。前立腺の病気のツートップ、前立腺肥大症と前立腺がんは、いずれも中高年になると急増する。前立腺肥大症は夜間頻尿などの尿トラブルの原因になり、前立腺がんは、進行が遅くおとなしいがんと思われているが、骨に転移しやすいという特徴があり、怖い一面もある。今回のテーマ別特集では、前立腺の病気の症状から、具体的な治療法までを紹介していこう。

  • 悪玉コレステロールを下げ、善玉コレステロールを上げる実践的な対策

    健康診断で多くの人が気にする「コレステロール」。異常値を放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や狭心症のリスクが高まっていく。数値が悪くても自覚症状がないため、対策を講じない人も少なくないが、異常値を放置しておいてはいけない。では、具体的にどのような対策を打てばいいのだろうか。今回のテーマ別特集では、健診結果のコレステロール値の見方から、具体的な対策までを一挙に紹介していこう。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

日経Gooday新型コロナ特設

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2020 Nikkei Inc. All rights reserved.