日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

スピードが速くて持久力もある筋肉は?

第24回 筋肉のタイプを3つの方法で分類する

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、筋肉のタイプを分類していきます。筋肉の分類法には、(1)「代謝的な特性」により分ける、(2)「組織染色法」により分ける、(3)筋収縮をつかさどる「タンパク質」により分ける、という3つの方法があります。

代謝性の特性による分類

 筋線維には大きく分けて速筋線維(FT=fast twich)と遅筋線維(ST=slow twich)とがあります。筋肉に単発の電気刺激を与えたときに、素早く収縮するのがFT、じわっとゆっくり収縮するのがSTです。

 ただ、研究の分野では、昔からもう少し細かい分類がされてきました。

筋肉のタイプを分類する方法は3つある(©PaylessImages -123rf)
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 最初に行われたのは、筋肉の代謝的な特性によって分ける方法です。筋線維の中にある解糖系のための酵素の量が多いか少ないか(解糖系の活性が高いか低いか)、さらに有酸素系の活性が高いか低いかを調べてみたところ、主に酸素を用いないエネルギー代謝(解糖系)を行うタイプと、酸素を用いるエネルギー代謝(酸化系)を行うタイプとに、きれいに分かれることが判明しました。前者はFG(fast glycolytic)、後者はSO(slow oxidative)と名付けられました。代謝的な特性は力学的な特性にほぼ対応しているので、FT≒FG、ST≒SOということになります。

 ところが、どちらにも属さない中間的なタイプも現れました。これはFGとSOの間ということでFOG(fast oxidative-glycolytic)と呼ばれます。このように、代謝系の活性という視点では、筋線維は3種類に分けられることになったわけです。

組織染色法による分類

 代謝活性を調べるのは手間がかかります。もう少し簡便な方法はないかということで、続いて行われたのが「ATPase染色法」というものです。これは筋収縮をつかさどるタンパク質のミオシンに注目した方法です。筋肉の力発揮は、ミオシンが直接のエネルギー源であるATP(アデノシン3リン酸)という物質を分解することで起こるのですが、その際の酵素活性を(ATPase活性)を染色法によって調べようというものです。

 すると、弱酸性のときに活性が高くなるタイプ、弱アルカリ性のときに高くなるタイプ、中性のときに高くなるタイプが出てきました。代謝的な特性と照合し、SOに相当するものをタイプI、FOGに相当するものをタイプIIa、FGに相当するものをタイプIIbと命名しました。これも100%イコールとはいえませんが、基本的には同じものということになります。

 これはこれでいい分類法だったのですが、その後、染め方の条件をいろいろと変えた実験が繰り返されると、タイプIc、タイプIIc、タイプIId…と際限なく細分化されそうな時代に突入してしまいました。これではキリがないということで、もう少しわかりやすい分け方に統一しましょう、という流れになってきました。それが、次に述べるタンパク質による分類です。

タンパク質による分類

 タンパク質レベルでの分類における指標は、ミオシンそのもの。幸いなことに、ミオシンは筋線維タイプによってそれぞれ違うことがわかっていました。同じミオシンというタンパク質であっても、元になっている遺伝子はすべて違うらしい。そこでミオシンの分子にどのようなタイプがあるのかを調べたところ、基本的には4種類であることが判明しました。

表 筋線維タイプの分類とそれぞれの主な特徴
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 まず遅筋線維が持っているミオシン分子(正確にはミオシン重鎖)はI型(MHCI)。一方、速筋線維にあるミオシン分子はI型とは明らかに違うもので3つのタイプがあることが分かり、それぞれミオシンIIa(MHCIIa)、ミオシンIIb(MHCIIb)、ミオシンIIxまたはIId(MHCIIx/IId)とされました。

 かつてのタイプI、タイプIIa、タイプIIbは、おおむねMHCI、MHCIIa、MHCIIbに対応しています。この4つの分類が最近のコンセンサスです。一時期はさまざまな情報が入り乱れて複雑化していましたが、このタンパク質に基づく分類によって、ずいぶん話がシンプルになってきました。

 ただし、ヒトの筋線維を調べてみると、MHCIIbはほとんどないことがわかりました。その代わり、IIxがたくさんあるのです。かつてIIbと呼ばれてきたものは、現在の選別法ではほぼIIxと考えていい。つまり、ヒトの場合はIとIIa、IIxの3つを中心に考えていけばいいということになります。一番スピードが速くて持久力のない筋線維はIIx。スピードと持久性とを兼ね備えている筋線維がIIa、一番遅い筋線維がIです。

 さらに研究が詳細に及ぶと、いくつかのタイプを併せもっている筋線維があることがわかってきました。例えば、速筋線維のなかにはIIaとIIxの両方をもっているものがある。これは“移行途中”のものであると思われます。IIxからIIaへ移行しつつある状態で、たまたまタンパク質が半々くらいの状況になっているのでしょう。

 前述の染色法では、そうした移行途中の筋線維がさまざまな方法によって染め分けられてしまったため、いろいろなタイプの筋線維が現れてしまったのだろうと現在は考えられています。

 筋線維タイプの移行は、トレーニングやディトレーニングなどによって起こります。動物実験ではIとIIの間での移行も起こるという研究結果が報告されていますが、今のところ、ヒトで同様のことが起こるかは明確ではありません。

一番スピードが速くて持久力のない筋線維はIIx。
スピードと持久性とを兼ね備えている筋線維がIIa。
一番遅い筋線維がI。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。