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“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

過去の筋トレの成果は10年先まで残る?

第46回 筋肉を成長させるメカニズム(1)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

マッスルメモリーという新しい可能性

 筋線維再生系とタンパク質代謝系は、おそらく同時に働いていると考えられますが、どちらがどのくらい働いているかというのは、まだよくわかっていません。その辺りは、これからの研究課題になってくるでしょう。ただ、最近の研究でいろいろなことがわかってきています。今回は、まず筋線維再生系について説明しましょう。

 筋線維には、「筋サテライト細胞」と呼ばれる幹細胞(筋線維のもとになる細胞)がペタペタとへばりついています。普段は眠ったような状態なのですが、筋トレをすると目覚めて増殖します。そして、前述したように新しい筋線維を作る場合もあるし、へばりついていた筋線維に融合して、その中に新たな核を挿入する場合もあります。

 実は筋線維の核そのものが増えることが確定したのは、ここ2年ほどの話です。そしてヒトの場合、その核は筋トレをやめて筋線維が細くなってしまっても、10年前後は残り続けるのではないかと考えられています。これは「マッスルメモリー」といわれるメカニズム。一度しっかり筋肉をつけておけば、10年先までその記憶が残っていて、トレーニングを再開したときに通常よりも早く筋肥大が起こるようになります。これも、筋線維再生系の新たな役割として注目されています。

ある一定以上の太さになるときに筋線維の中の核が増える?

 核は細胞の機能を制御する指令部のようなものなので、あまりにも大きな細胞に核が1個しかないと、制御の範囲を超えてしまいます。細胞には核領域というものがあり、1個の核が制御できる体積には上限があるのではないかと以前から考えられてきました。その仮説を裏づけるように、1個の核で機能している細胞を見ると、あるサイズ以上に大きなものは存在しません。そのサイズとは、細胞を直径が一定の球形だとした場合、直径20~30マイクロメートルです。

 細胞の中には直径100マイクロメートル、長いものだと10cmほどになるものもあります。当然、その中にはいくつもの核があり、それぞれの縄張りを制御しているのだと考えられます。このような仕組みが成り立っているとすると、筋線維も核の数が増えないと、ある一定以上の太さにはならないということになります。その役割を担っているのが筋サテライト細胞ということですね。

 では、核が増えるのは筋トレをスタートしてすぐなのか。それとも、筋線維がこれ以上太くならないという限界に達してからなのか。それはよくわかっていません。

 そもそも核が増えても、タンパク質の合成が上がらなければ筋線維は太くなりません。筋線維が太くなるための条件として、タンパク質の合成は必須ですが、核の増殖は必須ではないのです。ということから考えると、核が増えなくてもある程度までは太くなり、限度を超えそうになった段階で核を増やすという仕組みが働いているのではないかと、現在は考えられています。

 どのくらいまで筋線維が太くなると、核が増えるのか。それは私の研究室で少しずつ解明されてきていますが、はっきりとした数字が出てくるまでには、もう少し時間がかかりそうです。

タンパク質の合成と分解は切り替えスイッチのような関係。
合成が分解を上回れば筋肉の中のタンパク質の量が増え、
筋肥大が起こることが確かめられている。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
“筋肉博士”石井直方先生の連載が1冊になって好評発売中!
『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

 日経Goodayのサイトでご紹介している「“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学」の連載が本になりました。

 筋肉の基本的な仕組みから、理想的なトレーニング方法まで、専門的に解説。

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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。

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