“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。前回は、筋肉を使う順番――サイズの小さい運動単位から使っていくという「サイズの原理」を紹介しました。このサイズの原理には例外があります。1つは、スタートダッシュのように瞬間的に大きな力を使う場合。もう1つは筋肉をブレーキとして使う「伸張性収縮」をしている場合です。
前回は、運動単位が使われる順番についてお話ししました。筋力を発揮するときには「サイズの原理」という生理学的メカニズムがあり、基本的に小さな運動単位から順番に使われていく。小さな運動単位は遅筋線維、大きな運動単位は速筋線維からできているので、エネルギーをセーブしながら効率よく運動を行うために理にかなった原理になっている、ということでした。
ただ、このサイズの原理には例外があります。今回はそれを説明しましょう。
例外1:瞬発的な力を発揮する場合
例外の1つ目は、瞬間的に大きな力を出す場合です。スタートダッシュで一気に力を発揮するときに、わざわざエネルギー効率の悪い運動単位から使うというのは理にかなっていません。むしろ、出力の大きな運動単位を同時に、あるいは優先的に使ったほうがいい。そういった戦略も、身体の中に組み込まれていると考えるのが自然です。
トレーニングによって運動単位の使い方は変えられる
瞬発的な力の発揮がうまくできれば、スポーツのパフォーマンス向上にもつながります。実際、訓練を行うことによって、そういった特殊な運動単位の使い方をする能力が備わってくる、ということもわかってきています。
例えば、サルに次のような瞬発力のトレーニングをさせる実験が行われています。
動物のなかでは頭がいいといわれているサルでも、自分からトレーニングをしてくれるわけではないので、エサが入った箱に蓋をつけ、その蓋が開いた瞬間に手を出さないとエサが取れない、という仕組みを作ります。しかも、蓋が閉まるスピードは時間の経過とともにどんどん速くなっていきます。そして、あらかじめサルの脳に電極を埋め込んでおき、手を伸ばしてエサを取る動作をする際の脳の変化を調べました。
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