日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様

日経 Gooday

ホーム  > スポーツ・エクササイズ  > “筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学  > 高齢者でも適切なトレーニングで筋肉が太くなる  > 2ページ
印刷

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

高齢者でも適切なトレーニングで筋肉が太くなる

第45回 トレーニング効果の表れ方(後編)

測定技術の進化によりこれまでの常識が覆された

 これまで「最初に神経系で、次がサイズ」といわれてきた理由は、微妙な変化を検出できないという技術的な問題が大きかったと考えられます。超音波や今ほど性能が進化していなかったMRIで測定しても、筋肉が太くなっていることを確認できなかったのです。例えば1%ほど筋肉が太くなっていたとしても、これは機械の誤差のレベルとして認識されていた可能性があります。

 最新のMRIは性能が良く、測定のレベルも上がり、画像もよりシャープなものが得られるようになっています。昔であれば3%くらい断面積が増えないと太くなったといい切れない面がありましたが、今は1%増えただけでも太くなったと結論づけられるような状況になっているのです。トレーニング初期の微妙な変化が捉えられるようになったため、これまでの常識が覆されつつあるわけです。

 誤解のないように付け加えておくと、初期に神経系の要因で筋力が上がることは確かで、それがサイズの増大より先行していることも間違いありません。ただ、これまでいわれてきたように、サイズの増大が1~2カ月も遅れることはないということです。

筋肉が太くなることに年齢的な限界はない

 最後に、年齢によるトレーニング効果の表れ方の違いについて述べておきましょう。

 少し古い研究では、高齢者の場合はトレーニングをして筋力が十分に上がったときでも筋肉は太くならず、主に運動単位の動員能力が上がる、という結果が出てしまいました。そのため、筋肉が太くなるには年齢的な上限があるという結論になり、その後は学習効果などによってしか筋力を高めることはできないと、1980年代まではいわれてきました。それも前述のように、当時の実験の精度で調べるとそうなるということに過ぎなかったのです。また当時は、トレーニングの技術そのものにも未熟なところがありました。

 しかし90年代に入ると、高齢者でも筋肉が太くなったという報告が続々と発表され、サイズの増大に年齢的な限界はないということが新たな定説になっています。高齢者だから神経系だけの要因で筋力が上がるということではなく、若い人と同じように、神経系とサイズの両方の要素が改善していくことがはっきりわかってきているのです。私の研究室でも高齢者に負荷の軽いスロートレーニングを行わせることで、約3カ月で大腿四頭筋が10%太くなることを確かめています。

 ただ、トレーニング後の一過的な筋肉の中の状態は、高齢者と若齢者とでは違いがあるようです。例えば1回のスロートレーニングを行った後、若い人は筋肉の中の循環が落ちてきて、酸素濃度が下がるという状態になります。これが筋肉が太くなる条件の1つなのですが、高齢者でも同じような状態になるかというと、若い人ほど低酸素にはなりませんでした。同じように筋肉は太くなるのに、筋肉の中の状態に違いがあるというのは不思議です。

 この違いについてはもう少し詳しく調べてみる必要がありますが、適切なトレーニングさえすれば高齢者でも筋肉が太くなるという事実は、これから本格的なトレーニングを始めようとしている人にとって希望のもてる事実だと思います。

全くの初心者が
1回目のトレーニングをした直後から、
筋肉が太くなるための反応はしっかり起こっている。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
“筋肉博士”石井直方先生の連載が1冊になって好評発売中!
『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

 日経Goodayのサイトでご紹介している「“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学」の連載が本になりました。

 筋肉の基本的な仕組みから、理想的なトレーニング方法まで、専門的に解説。

 全国の書店、またはベースボール・マガジン社サイトでお買いお求めください。

こちらからでもご購入いただけます
ベースボール・マガジン社 商品検索&販売サイト


この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。

先頭へ

前へ

2/2 page

RELATED ARTICLES関連する記事

スポーツ・エクササイズカテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • かかると怖い!「膵炎」「膵がん」

    激痛に襲われる「急性膵炎」や、発見しにくく5年生存率が極めて低い「膵がん」など、膵臓の病気には厄介なものが多い。今回は、膵臓という臓器の役割や、膵臓の代表的な病気である「膵炎」「膵がん」の怖さ、早期発見のコツをまとめていく。

  • 60代以降で急増! 男を悩ませる前立腺の病気

    中高年にさしかかった男性にとって、病気が心配になる臓器の1つが「前立腺」だ。前立腺の病気のツートップ、前立腺肥大症と前立腺がんは、いずれも中高年になると急増する。前立腺肥大症は夜間頻尿などの尿トラブルの原因になり、前立腺がんは、進行が遅くおとなしいがんと思われているが、骨に転移しやすいという特徴があり、怖い一面もある。今回のテーマ別特集では、前立腺の病気の症状から、具体的な治療法までを紹介していこう。

  • 悪玉コレステロールを下げ、善玉コレステロールを上げる実践的な対策

    健康診断で多くの人が気にする「コレステロール」。異常値を放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や狭心症のリスクが高まっていく。数値が悪くても自覚症状がないため、対策を講じない人も少なくないが、異常値を放置しておいてはいけない。では、具体的にどのような対策を打てばいいのだろうか。今回のテーマ別特集では、健診結果のコレステロール値の見方から、具体的な対策までを一挙に紹介していこう。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

日経Gooday新型コロナ特設

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2020 Nikkei Inc. All rights reserved.