“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、前回に引き続き、筋力トレーニングの効果がどう表れるかを見ていきます。前回、筋トレ“初心者”の記録が伸びるのは中枢神経の抑制などが影響していると説明しましたが、測定技術の進化により、実は最初から太くなる反応が起こっていることもわかってきました。また、最近の研究では、高齢者でも適切なトレーニングをすれば筋肉が太くなることも明らかになっています。
トレーニングを開始すると筋肉はすぐに太くなり始める

トレーニングによる筋力アップの効果は、まず神経系の適応によって数値として表れ、その後、筋肉のサイズが増す。これが今までの常識だったと、前回説明しました。しかし、最近の研究では少し違った見解が生まれてきています。連載第38回でも触れましたが、もう少し詳しく説明していきましょう。
私たちの研究室で、トレーニング効果を詳細に調べてみました。すると、必ずしも「最初に神経系で、次がサイズ」という図式の通りになるとは限らないことがわかってきました。どういうことかというと、全くの初心者が1回目のトレーニングをした直後から、筋肉が太くなるための反応(タンパク質の合成が上がって分解が下がる)がしっかり起こっているようなのです。
そして2回、3回とトレーニングを繰り返すに従って、その反応は着実に蓄積されていきます。ですから、最初のうちは神経系の適応しか起こらないわけではなく、最初から太くなる反応も起こっている、ということになります。
MRI(磁気共鳴断層撮影)を使って調べてみると、トレーニング開始から3日後に明らかに太くなっている、ということはさすがにありません。しかし、1~2週間ほど経過すると、微妙に太くなっていることが確認できます。そして太くなる度合いは、徐々に加速していきます。
筋肉に刺激を与えるとタンパク質の合成が高まりますが、疲労の度合いが強すぎると、逆にタンパク質の分解が上がってしまいます。ですから、あまり筋肉をいじめすぎるのはよくないのですが、トレーニング開始時はどうしても刺激が強くなってしまうので、合成も起こりますが、分解も起こってしまいます。ということもあって、トレーニング初期にいきなり筋肉が太くなることは起こりにくいのかもしれません。