日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

左右の筋肉がアンバランスだと感じる人のトレーニング法

第42回 バイラテラルとユニラテラル(前編)

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。筋トレには大きく、「両手・両足で同時に行うもの」と「片手・片足ずつ交互に行うもの」があります。普段のトレーニングでは、どちらのトレーニングを重視すべきなのでしょうか。特に、左右の筋肉がアンバランスと感じている人は意識する必要があります。

左側の筋力+右側の筋力=両側の筋力とはならない

ボート選手は、両足でプレートを押しながら、両腕でオールを引く。つまり、両手・両足を同時に使うバイラテラルトレーニングだ。(©Ivan Smuk -123rf)

 筋力トレーニングの種目にはいろいろな種類がありますが、大きく分けると両手・両足で同時に行うものと、片手・片足ずつ交互に行うものとがあります。前者を「バイラテラル(両側性)トレーニング」、後者を「ユニラテラル(一側性)トレーニング」といいます。

 基本的な種目でいうと、バーベルを用いるものはバイラテラル、ダンベルの場合は、バイラテラルとユニラテラルの両方が可能です。どちらがいいということではなく、それぞれの特徴を理解して使い分けることが大切です。

 まず知っておかなければいけないのは、両側性の筋力発揮をするときは、片側ずつ筋力発揮をしたときの足し算よりも、合計が小さくなってしまうという生理学的な現象があることです。これを専門的な言葉で「両側性欠損(バイラテラルディフィシット)」といいます。

 例えば、左右の手で握力を測り、それぞれ30kgという数値が出たとします。そこで両手同時に握力計を握ると60kgという値が出るのではないかと期待してしまいますが、実際にはそうならず、左右の合計の90%程度の筋力になってしまいます。つまり、左右それぞれが30kgを切る値になってしまうのです。筋力だけでなく、パワーでも同様のことが起こります。

 両側性欠損の原因は、はっきりとはわかっていませんが、おそらく脳の中の問題だと考えられています。両側を使って動作を行うことは、それだけ脳の広い領域を使わなければならないため、脳にとってある種の負担になるのではないかと考えられます。

 もう一つの推論は、片側を欠損させたほうが身体にとって都合がいいのではないかというものです。というのも、完全に左右対称という状態は身体としてありえません。対称であるほうが好ましいと思ってしまうところですが、心臓は身体の中心より左側にありますし、肝臓は右側に寄っています。このように身体のつくりそのものが、もともと非対称なのです。両側同時に動作を行うときも、どうしても筋力の弱いほうに強い負担がかかってしまうので、自動的に弱いほうにそろえるような力発揮の仕組みが備わっているのかもしれません。

トレーニングとして望ましいのはどっち?

 ということは、左右それぞれの筋肉を最大限に鍛えて強くすることが目的の場合、一方の筋肉をフルにトレーニングし、もう一方の筋肉も同じようにトレーニングすればいいのでしょうか。つまり、上腕二頭筋を強くするにはバイラテラルなバーベルカールをするより、ユニラテラルなダンベルカールを行ったほうがいいのでしょうか。

 確かに、そうすれば1 回の筋力発揮能力は高まるかもしれません。ただ、ここで問題となるのは、左腕と右腕の筋力が微妙に違う場合(ほとんどの人がそうだと思います)です。それぞれダンベルカールでトレーニングすると、左でできる回数と右でできる回数が違ってしまいます。あるいは、左で扱えるダンベルと右で扱えるダンベルが違ってしまうケースも考えられます。そうなると、結果的に左右の非対称性をどんどん増悪してしまうという危険性もあります。それを避けるためには、やはり必然的に弱いほうの筋力に支配されるバイラテラルのほうが望ましいといえるでしょう。

 また、ユニラテラルは(種目にもよりますが)、どうしても身体の片側にだけ重たい負荷がかかるため、トレーニングを行っている箇所以外にストレスがかかってしまうということもあります。その結果、フォームそのものが非対称になってしまい、それが原因でどこかを痛めてしまうということも考えられます。

両側性欠損はバイラテラルトレーニングで低減できる

 両側性欠損は、バイラテラルトレーニングをすることによって低減することも可能なようです。

 これについては、オーストラリアのグループが、ボートのトップ選手を使って実験を行っています(下図)。ボートの選手は両足でプレートを押しながら、両腕でオールを引くという運動を日常的に行っています。つまり、競技動作のパターンそのものがバイラテラルです。

図 ボート競技選手に見られるバイラテラルディフィシットの低減
ボート競技選手にレッグプレスを両側と、左右片側ずつ行わせ、それぞれの最大筋力を測定。競技レベルが高い選手ほど両側性動作での筋力低下のレベルが低くなり、国際レベルの選手は両側性での筋力発揮がむしろ左右の筋力の合計を上回ることがわかる。(Secher、1975 より改変)
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 そこで彼らに両足と片足でそれぞれレッグプレスをさせたところ、両足で行ったときにほとんど筋力が下がりませんでした。両側性欠損の度合いが非常に小さかったのです。この実験からもわかるように、バイラテラルの大きな特徴は、左右の不均衡を均一にすることだといえるでしょう。

 一方、ランニングなどは左右の手足を交互に動かすため、運動のパターンとしてはユニラテラルな連続運動ということになります。このように「片方が強い力を出しているときに、もう片方が違うパターンの力を出しているか、緩んでいる」という運動を専門に行っている人は、両側同時に力を出す能力が落ちてくる。つまり、両側性欠損が大きくなるということも考えられます。

 ですから、普段のトレーニングでは、まずバイラテラルトレーニングを重視するべきです。特に左右の筋力がアンバランスだと感じている人は、両側性のバイラテラルトレーニングを意識的に増やしたほうがいいでしょう。

バイラテラルトレーニングには、
左右の不均衡を均一にする
という大きな特徴がある。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。