トレーニングとして望ましいのはどっち?
ということは、左右それぞれの筋肉を最大限に鍛えて強くすることが目的の場合、一方の筋肉をフルにトレーニングし、もう一方の筋肉も同じようにトレーニングすればいいのでしょうか。つまり、上腕二頭筋を強くするにはバイラテラルなバーベルカールをするより、ユニラテラルなダンベルカールを行ったほうがいいのでしょうか。
確かに、そうすれば1 回の筋力発揮能力は高まるかもしれません。ただ、ここで問題となるのは、左腕と右腕の筋力が微妙に違う場合(ほとんどの人がそうだと思います)です。それぞれダンベルカールでトレーニングすると、左でできる回数と右でできる回数が違ってしまいます。あるいは、左で扱えるダンベルと右で扱えるダンベルが違ってしまうケースも考えられます。そうなると、結果的に左右の非対称性をどんどん増悪してしまうという危険性もあります。それを避けるためには、やはり必然的に弱いほうの筋力に支配されるバイラテラルのほうが望ましいといえるでしょう。
また、ユニラテラルは(種目にもよりますが)、どうしても身体の片側にだけ重たい負荷がかかるため、トレーニングを行っている箇所以外にストレスがかかってしまうということもあります。その結果、フォームそのものが非対称になってしまい、それが原因でどこかを痛めてしまうということも考えられます。
両側性欠損はバイラテラルトレーニングで低減できる
両側性欠損は、バイラテラルトレーニングをすることによって低減することも可能なようです。
これについては、オーストラリアのグループが、ボートのトップ選手を使って実験を行っています(下図)。ボートの選手は両足でプレートを押しながら、両腕でオールを引くという運動を日常的に行っています。つまり、競技動作のパターンそのものがバイラテラルです。
そこで彼らに両足と片足でそれぞれレッグプレスをさせたところ、両足で行ったときにほとんど筋力が下がりませんでした。両側性欠損の度合いが非常に小さかったのです。この実験からもわかるように、バイラテラルの大きな特徴は、左右の不均衡を均一にすることだといえるでしょう。
一方、ランニングなどは左右の手足を交互に動かすため、運動のパターンとしてはユニラテラルな連続運動ということになります。このように「片方が強い力を出しているときに、もう片方が違うパターンの力を出しているか、緩んでいる」という運動を専門に行っている人は、両側同時に力を出す能力が落ちてくる。つまり、両側性欠損が大きくなるということも考えられます。
ですから、普段のトレーニングでは、まずバイラテラルトレーニングを重視するべきです。特に左右の筋力がアンバランスだと感じている人は、両側性のバイラテラルトレーニングを意識的に増やしたほうがいいでしょう。
バイラテラルトレーニングには、
左右の不均衡を均一にする
という大きな特徴がある。
(構成:本島燈家)
東京大学教授

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