“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回のテーマは、筋肉がどのようにコントロールされているかです。筋肉の活動は、「信号があれば活動する」「信号がなければ活動しない」という2通りしかありません。コンピュータと同じように「0か1か」のデジタル型なのです。
全か無の法則
筋肉の活動が運動単位によって行われることは、前回までに説明してきました。今回は、その運動単位が身体の中でどのように働き、筋線維がどのように制御されているかという話をしていきましょう。骨格筋の運動単位の活動は、基本的には『全か無の法則』に従っています。いい方を変えると「0か1か」という2通りしかない。つまり、力を発揮するか、おとなしく何もしないか、です。

なぜ、そうなっているのでしょうか。
神経細胞や筋線維は、細胞がもっている電位が変化することで活動します。活動電位を発すれば活動するし、発しなければ活動しない。活動電位の大きさそのものは変化しないため、微妙な調整はできません。だから、コンピュータなどと同じように0か1かという、デジタル型の制御を受けることになるわけです。
活動するときには、まず筋線維の中にある筋小胞体という器官からカルシウムイオンが放出されます。このカルシウムイオンが筋線維を収縮させるスイッチ系に働き、筋収縮がオンになるという仕組みになっています。この骨格筋の性質は、スポーツシーンやトレーニングにおける筋肉の働きを考える上で重要なキーワードになってきます。
自律神経などの作用によって、全か無の法則は若干変化する可能性があると考えられています。しかし、それは特別なケースで、基本は「全か無」「0か1」。まずはこのことを覚えておきましょう。
単収縮と強縮
なんだ、そんな単純なことなのかと思った人もいるかもしれません。しかし単純なのは、あくまで運動単位そのものの活動。これが筋線維の発揮する力、という問題になると少々複雑になってきます。
活動電位が1回発揮されると、それが信号として筋線維に伝えられ、筋線維も1回だけ短く収縮します。これを単縮または単収縮(twich)といいます。これは実験などで筋肉に電極を当て、短い電気刺激を1度だけ送ったときに起こる反応で、意志に基づく本来の筋収縮とは別のものです。
前述した全か無の法則に従って、単収縮のときも筋線維はほぼフルに活動しています。ただ、筋線維の周囲には腱のように、筋肉の収縮によって引っ張られ、収縮を緩める働きをする構造があります。ですから筋線維が1回だけ短く収縮しただけでは、その力のすべては骨の末端まで伝わりません。一瞬、小さな力がポンと出るかもしれませんが、筋力発揮と呼ぶには程遠いものといえるでしょう。
では、いわゆる筋収縮が起こるときはどんなことが起こっているのかというと、10~100ヘルツの頻度で繰り返し活動電位が発揮されています。このように何度も電位の変化が起きてくる状態を活動電位のトレインといい、この収縮を強縮(tetanus)といいます。
単収縮とは違い、強縮では連続的に筋線維が収縮するので、腱も十分に引っ張られて大きな力が骨の末端まで伝わることになります。
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- 発揮される力はまず運動単位の数で決まる