30分以上話を伺っても要領を得ない・・・
患者から医療者への不満で常に多いのは、医療者の説明に関することです。「もっとわかりやすく説明してほしい」「患者の気持ちに配慮した言葉遣いをしてほしい」という声をよく聞きます。医療が人間(患者)を相手にする以上、医療者にコミュニケーション能力が求められるのは当然です。私たちCOMLは模擬患者活動にも力を入れており、患者とのコミュニケーションの取り方の練習や、医療面接の試験の相手役として、医療者(や学生)のコミュニケーション教育に参画してきました。
ただ、忘れてならないのは、コミュニケーションは“双方向の努力”があってはじめて成り立つということです。つまり、医療者がどれだけコミュニケーション技術を磨いても、患者が応えてくれなければ、一方通行で終わってしまうのです。もちろん、モノも言えないようなつらい症状のときにも努力せよと言っているわけではありません。自分の症状を伝えるとき、説明を聞いて理解するとき、どうしたいのかを伝えるときなど、コミュニケーションがとれる状態のときの話です。
電話相談で多くの患者・家族の声に耳を傾ける中で、私は、医療者だけでなく、患者側にもコミュニケーションに問題があるのではないかと感じるようになりました。30分以上話を伺っても、いったい誰のことなのか、何が問題なのかがわからないご相談が少なくありません。そのたびに「医療機関でも同じように話されているとしたら、医療者には伝わらないだろうな」「感情をぶつけるばかりでは、医療者も向き合ってくれないだろう」と感じました。何とかして、患者側のコミュニケーション能力を高める活動へと結びつけたい―。その思いが、2001年から開催している「患者と医療者のコミュニケーション講座」へと発展していきました。
電話相談で感じる患者側の課題
私が電話相談で痛感するのは、相談したい内容やそれに至る事情、経過などを、理路整然とまとめて話してくださる方は少数派だということです。私たち相談スタッフは、まるでジグソーパズルのピースをはめるように、あちらこちらに飛ぶお話を受け止めて聴き、話の全容をつかむ努力を強いられます。1件に約40分かけて対応している電話相談だからできることですが、診察室では、ドクターに40分かけてじっくり話を聴いてもらうことはまず不可能です。ドクターは早々に患者の話を遮り、自分が必要と思うことを聞くでしょう。患者は聞かれたことに答えるだけで、結局、言いたいことが言えないまま診察が終わる・・・だから不満が残るのです。
COMLの「患者と医療者のコミュニケーション講座」では、自分のコミュニケーションの癖に気づき、改善のポイントをつかむためのワークショップおこなっています。診察室でのコミュニケーションでまず大切なのは、限られた時間の中で、ポイントを簡潔に伝えることです。年齢とともに増える「あれ」「それ」「これ」を適切に言語化することも大事です。どんな症状で、いつからどのように変化し、どういうときに支障があるかなど、自分の置かれている状況をドクターに理解してもらえるよう、要領よく話さなければなりません。
- ポイントを簡潔に伝える
- 「あれ」「それ」「これ」を言葉にする
- 「いつから」「どう変化した」を伝える (例:「4日ほど前からのどが痛くなり、昨晩からは熱も出てきました。今朝測ったら38度でした」)
患者側から伝えられればよいかと言うと、そうではありません。治療に必要な情報を医師から聞き、内容を理解する能力も問われます。しかし、周りを見渡すと、実際には一方的に自分の訴えや話ばかりを繰り返す人が少なからず存在します。繰り返しますが、それでは“双方向”にはならないのです。
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