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医療問題なぜなにゼミナール

第2回 医師と良好な関係を築くための実践的ヒント10

 山口育子=NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長

誰もがいつかはお世話になる「医療」。ですが、自分や家族が病気になるまで、医療については特に関心がないという人も多いのではないでしょうか。医師との付き合い方や医療制度の動向まで、いざという時にあわてず、安心して治療を受けるために必要な知識をNPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)理事長の山口育子さんが伝授します。

『新・医者にかかる10箇条』とは?

 前回は、COMLの合言葉である「賢い患者になりましょう」をご紹介しました。今回は、そうなるための具体的な心構えをまとめた、『新 医者にかかる10箇条』(下表)をご紹介したいと思います。1998年、厚生省(当時)の研究班の一員として素案作りからかかわり、国の予算で作成した初版(無料配布分)4万冊は、3カ月で底をつきました。以後はCOMLで発行を続けており、既に21万冊を突破しました。

『新・医者にかかる10箇条』
(1)伝えたいことはメモして準備
(2)対話の始まりはあいさつから
(3)よりよい関係づくりはあなたにも責任が
(4)自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報
(5)これからの見通しを聞きましょう
(6)その後の変化も伝える努力を
(7)大事なことはメモをとって確認
(8)納得できないことは何度でも質問を
(9)医療にも不確実なことや限界がある
(10)治療方法を決めるのはあなたです

(1)伝えたいことはメモして準備

 診察室で緊張して伝えたいことが言い出せなかった、質問するつもりだったのに忘れて帰宅してしまった、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。ましてや短い診察時間で要領よく伝え、質問するのは容易ではありません。そこで、受診前に「伝えたいこと」「聞きたいこと」をすべて書き出しておきます。その中から3~4つに絞って、箇条書きにしたメモを作ります。その際、メモ用紙にびっしり書くのではなく、余白をたっぷり作っておくことをお勧めします。

(2)対話の始まりはあいさつから

 診察室に入ったとき、ドクターはパソコンに向かっていて横顔しか見せていないことがよくあります。しかし、一般社会では、あいさつもせずに始める人間関係なんてあり得ません。患者のほうから、「こんにちは」などと積極的にあいさつして、ドクターとの人間関係を築きましょう。

(3)よりよい関係づくりはあなたにも責任が

 コミュニケーションは双方向です。どちらか一方だけが努力しても成立しません。それだけに、よりよい関係づくりには、患者の努力も欠かせないのです。患者の質問の仕方や態度によって、ドクターのいい感情を引き出すこともあれば、悪い感情を引き出してしまうこともあります。ドクターの説明で分からないことがあったら「〇〇はどういう意味でしょうか」とタイミングよく質問する、説明を通じて理解した内容を自ら言語化して「〇〇と解釈したのですが間違いありませんか」と確認する……など、ちょっとしたことでコミュニケーションが深まります。

(4)自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報

 たとえ“名医”であっても、目の前に座った患者の自覚症状と病歴をピタリと言い当てることは不可能です。特に初診のときは、自覚症状と病歴をきちんと伝えられるように、メモにまとめて持って行きましょう。あらかじめパソコンなどで病歴表を作成し、副作用やアレルギーなどの注意事項も記しておくと便利です。

(5)これからの見通しを聞きましょう

 “見通し”といっても、治るかどうかやその時期は、専門家でも断言できません。ただ、治療のスケジュールや、治療の目標、日常生活への影響はどのようなことが予想されるかなど、見通しを確認することは可能です。大まかな見通しを知って、患者自身が努力すべきことを考えてみましょう。

『新 医者にかかる10箇条』

(6)その後の変化も伝える努力を

 治療が始まれば、症状も変化します。悪化した場合はつらく不安も伴いますから、ドクターに伝えますが、「よくなった」ときの変化は伝えるのを忘れがちです。よくなったことも含めて、変化を伝えるのを忘れないようにしましょう。

(7)大事なことはメモをとって確認

  (1)で準備した、余白をたっぷりとったメモの再活用です。ドクターに質問して得た回答は、忘れないようにメモしましょう。また、専門用語やどこの部位の説明か理解できないときは、「いまの用語はどんな字を書くのですか」「ここに図を書いてもらえますか」と頼んで、メモの余白を最大限利用しましょう。

(8)納得できないときは何度でも質問を

 説明が理解できなかったときは、きちんと質問することが大切です。理解できていないのに、わかったふりをすることは禁物です。また、一度聞いた説明が理解できず、再度質問したいときは「〇〇について先ほど説明してもらったのですが、十分理解できなかったので、もう一度お話しいただけますか」という“ひとこと”を添える努力をしましょう。

(9)医療にも不確実なことや限界がある

医師は決して万能ではない(© takasu-fotolia.com)

 残念ながら、現代の医学で治る病気は一部です。それにドクターも人間ですから、“絶対”や“完璧”を求めることはできません。医療にも不確実なことや限界もあるということを認め、冷静に医療を受けることが大切です。 例えば、薬を飲めば副作用が起きることがありますが、どの人にどんな副作用が出るかはあらかじめわかりません。また、病気になると「医療を受ければマイナスがプラスに転じる」と思っていたのに、「思ったような状態にならなかった」という相談が届きます。COMLにかかわるドクターによると、「マイナスの状況がプラスマイナスゼロになるだけでも良しとしてほしいのが医療」と言います。それだけに、「私の病気は医療の力で何がどのように改善できますか」という視点で医療と向き合うことが大切なのです。「あきらめる」というのではありませんが、「納得して認める」「受け入れる」ことも、ときには必要です。

(10)治療方法を決めるのはあなたです

 治療方法も多様化している時代。ドクターが「あなたにはこれが最善」と1つの選択肢だけを示してくれるとは限りません。治療方法が複数ある場合は、それぞれの治療方法の長所、短所を尋ね、理解したうえでよく考えて自己決定しましょう。一人で悩まないで相談することも大切です。

 上記の10項目はいずれも心構えであり、全部できなければならないということではありません。場合によってはそこまで必要がないということもあるでしょう。ですが、覚えておくと、何かのヒントになるはずです。

子ども向けのプロジェクトも始動

 ただ、大人になってから急に賢い患者になろうとしても、なかなかできません。本当は子どものころから、基礎を築いていってほしいのです。そこでCOMLではプロジェクトチームを立ち上げ、2014年4月に子ども向け『いのちとからだの10か条』をまとめました(下表)。

『いのちとからだの10か条(じょう)』
(1)いのちとからだはあなたのもの
(2)食事(しょくじ)・すいみん・手洗(てあら)い―予防(よぼう)が大事(だいじ)
(3)からだの変化(へんか)に気(き)づこうね
(4)お医者(いしゃ)さんには自分(じぶん)で症状(しょうじょう)を伝(つた)えよう
(5)わからないことはわかるまで聞(き)いてみよう
(6)自分(じぶん)がどうしたいかを伝(つた)えよう
(7)治療(ちりょう)を受(う)けるときはあなたが主人公(しゅじんこう)
(8)お薬(くすり)は約束(やくそく)守(まも)って使(つか)おうね
(9)みんな違(ちが)いがあって当(あ)たり前(まえ)
(10)だれのいのちもとっても大切(たいせつ)

 この10か条は、受診の必要性のある子どもだけを対象にしているわけではありません。せっかくCOMLから発信する子ども向けの10か条なのだから、いのちの主人公・からだの責任者としての意識を持つこと、日々の生活で気をつけること、そして受診の必要性が出てきたときの姿勢を伝えたい。そして、そのうえで他者も含めた“いのち”とどう向き合ってほしいのかをメッセージの骨子としました。

 プロジェクトチームのメンバーからは「もっとこういうことも盛り込みたい」というたくさんの想いが出されました。子どもにもわかりやすい簡単な表現で、すべてを伝えきるには限界があります。そこで、『新 医者にかかる10箇条』と同様に、見開きで各項目を文字とイラストで構成する小冊子を作成することになりました。また、今後の取り組みとして、10か条を骨子にした低学年・中学年・高学年向け実践本も作っていこうと考えています。

 小冊子の完成後はすぐに販売するのではなく、まずこの10か条を多くの方に知っていただく普及キャンペーンが必要と考え、希望者に無料配布しようと考えています。冊数は『医者にかかる10箇条』のときと同様に4万冊を想定。小冊子のデザイン費や印刷費、送料、封筒などの消耗品費、人件費など約600万円が必要になります。そこで、より多くの方に関心を持ってもらうとともに、協働して小冊子を作成しようと、5月から半年間かけて600万円を目標にファンドレイジング(寄附を募ること)に取り組んでいます。

 ご興味のある方は、せひ一度、『いのちとからだの10か条(じょう)』普及キャンペーンのページをご覧になってください。

 次回は、「診察室でのコミュニケーション」についてお話しする予定です。ぜひお読みください。

山口育子(やまぐち いくこ)
NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)理事長
山口育子(やまぐち いくこ) 大阪市生まれ。自らの患者体験から、患者の自立と主体的医療の必要性を痛感していた1991年11月、COMLと出会う。「私たち一人ひとりが『いのちの主人公』『からだの責任者』。そんな自覚を持った『賢い患者になりましょう』をキャッチフレーズとした活動趣旨に共感し、1992年2月にCOMLのスタッフとして参加。創設者の辻本好子氏の死去により、理事長に就任。COMLでは、電話相談や各種セミナーなどを積極的に実施。このほか、厚生労働省をはじめとした各種検討会の委員としても幅広く活動している。