前回(「第10回 「医療訴訟を提起したい」という相談が激減した理由」)は、COMLが対応してきた5万5000件に上る電話相談の内容の変遷についてご紹介しました。今もさまざまな苦情が届きますが、医療者の「説明不足」を訴える相談は、なお後を絶ちません。インフォームド・コンセントが日本の医療現場で重視されるようになって四半世紀が過ぎようとしているのに、です。

しかも、「その治療方法を提示されたなら、通常はこの合併症のことは説明されるはずなんですけれど…」「このような基本的な説明がなされなかったのですか?」と、思わず問い返したくなるような、非常に基本的な内容を「聞いていない」と相談者は訴えるのです。
私自身ももちろん、患者や家族の立場として医療を受けるときがあります。ここ数年、どのような医療機関に行っても、説明は丁寧にされるようになったという実感があるだけに、説明不足の相談が届くたびに不思議でなりませんでした。そこで数年前から、結果として説明不足と思われる相談が届くたびに、「医師から説明の時間は取ってもらえなかったのですか?」と確認するようにしてみました。
「いえ、説明は1時間ほどありました」と口を揃える相談者
すると、何と大半の方が、「いえ、説明は1時間ほどありました」と口を揃えるのです。1時間も説明されたのなら、このような基本的なことを説明しないはずがない、なぜなんだろう。そんな疑問を抱き、さらに詳しく相談者の話を聴いて分析してみました。すると、説明不足に陥った真相として、意外なことに、インフォームド・コンセントが定着したことが原因の一つであることが判明しました。
インフォームド・コンセントという概念は、もともと、「患者が病名や病状を知りたいと望めば、知る権利がある」という“患者の権利”が根本にあって生まれました。ところが、インフォームド・コンセントが日本に上陸して以来、患者の権利というよりは、「説明すること」と理解されて広まっていきました。そのため、現在、日本のほとんどの医療現場におけるインフォームド・コンセントは、医療者が必要と思った情報の一方通行になっていると思うのです。
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