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医療問題なぜなにゼミナール

第10回 「医療訴訟を提起したい」という相談が激減した理由

電話相談から見たこの25年間の患者意識の変化

 山口育子=NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長

“医療崩壊”報道へのシフト

 しかし、医師不足や救急医療の危機といった“医療崩壊”へと報道がシフトした2007年ごろから、「医療訴訟を提起したい」という電話相談が激減しました。

 2004年に起こった福島県立大野病院事件(産婦が胎盤剥離の際に失血死)では、担当医が2006年に逮捕されるというショッキングな事態に至り、関連する報道も過熱しました。しかしその後、産婦人科医から「あの状況は妊産婦を救えるものではない」と悲鳴が上がりました。

 さらに、2006年、奈良県の町立大淀病院で出産間近の妊産婦がくも膜下出血を起こし、受け入れ先の病院がなかなか見つからず、結果的に転送先の病院で死亡するという事件が起こりました。この際、「たらい回し」という言葉を使った報道も多く見られましたが、その際も同様に、「たらい回しではない。受け入れたくても受け入れられないんだ」という悲鳴が医療側から噴出しました。

 そういった動きによって、マスコミもそれ以前に比べると、“医療たたき”を前面に出した報道をしなくなりました。それに見事に呼応するかのように、「医療訴訟に訴えたい」という相談が激減したのです。こうした背景もあり、現在は、「法的解決や示談交渉」に関連した相談は、全体の1割ほどです。

以前とは異なる「自己決定できない」理由

 そのような変遷の中で、変わることなく届く相談が、相談というより判断を求める、つまり、治療法の選択や医療機関選びなどに関して「自己決定できない」という内容です。

 ただし、その理由は以前とは変わってきました。かつては「情報や知識がないから医師が話すことを理解したり自己決定するのが難しい」と訴える方が多くいました。しかし今は、専門家と同じぐらいの情報がたやすく手に入る時代です。また、COMLに寄せられる相談においても、「十分な説明を受けていない」という方は少なく、相応の時間、医師が説明の時間を取っている例が大半です。

 では、現実には何が起こっているのでしょうか? 患者が詳しい医療情報を手にしても、その内容はやはり専門的で難解。結果として、情報の渦に翻弄されてしまっている患者・家族が少なくないのです。

 次回は、インフォームド・コンセントという言葉が一般化した時代において「自己決定できない」患者がなぜ減らないのかを分析するとともに、情報に振り回されないために、患者として何ができるかについて、考えてみたいと思います。

【関連連載】
COML患者相談室
COML患者塾

【COMLからのお知らせ】
 COMLでは、「医療で活躍するボランティア養成講座」の参加者を募集しています。患者と医療者が協働してよりよい医療をつくりあげていく時代。患者の視点や意見がいまほど必要とされているときはありません。ボランティアといっても、活躍する場はさまざま。まずは医療の周辺事情を理解し、賢い患者になったうえで、あなたが参加できるボランティア活動を探してみませんか?
 大阪開催は8/10~14の5日間、東京開催は10月から来年2月にかけて5日間のスケジュールで行います。5回の講座は、連続参加はもちろん、関心のある講座だけを選択することもできます。
 詳しくは、こちら をご覧ください。

山口育子(やまぐち いくこ)
NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)理事長
山口育子(やまぐち いくこ) 大阪市生まれ。自らの患者体験から、患者の自立と主体的医療の必要性を痛感していた1991年11月、COMLと出会う。「私たち一人ひとりが『いのちの主人公』『からだの責任者』。そんな自覚を持った『賢い患者になりましょう』をキャッチフレーズとした活動趣旨に共感し、1992年2月にCOMLのスタッフとして参加。創設者の辻本好子氏の死去により、理事長に就任。COMLでは、電話相談や各種セミナーなどを積極的に実施。このほか、厚生労働省をはじめとした各種検討会の委員としても幅広く活動している。

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