倫理指針だけでは不十分
少し硬い話になりますが、報告書の内容を解説します。
検討会では、臨床研究に携わるさまざまな領域の研究者からヒアリングを重ね、欧米の臨床研究を調査してきた研究班の報告も聞いて検討と議論を重ねました。その結果、やはり倫理指針だけでは十分とは言えない、しかし過度な法規制は研究の萎縮につながるとして「一定範囲の臨床研究について法規制が必要」という結論に至りました。

この“一定範囲”とは、「未承認または適応外の医薬品や医療機器を用いた臨床研究をおこなう場合」、さらには「広告に用いられることが想定される臨床研究」となりました。今後、この報告を受けて、具体的な法案の提出がなされる予定です。
規制や対策が必要とされたことのうち、特に議論を繰り返したのが「倫理審査委員会」についてです。検討会の発端となったディオバン事件を振り返ったとき、倫理審査委員会は何の歯止めにもなっていませんでした。
一方、今後も学問の自由を尊重し、研究の信頼性を確保するためにますます重要になるのが倫理審査委員会の役割です。そのため、研究の倫理的妥当性だけでなく、科学的妥当性も十分審査できる能力を倫理審査委員会が持てるようにしていかないとならないとの結論になりました。
研究途中のチェックも必要
ただ、全国の倫理審査委員会は指針に基づいて登録されているだけでも1300もあり、能力や体制、質の確保ができている状況ではありません。日本の場合、倫理審査委員会は医療機関や研究機関ごとに設置されていることが多いのですが、ヨーロッパでは地域ごとに設置され、定期的に審議事項の試験のようなことも行って、質の担保を図っているそうです。そこで今後は、地域や専門領域に応じた集約化をしていく方向性が必要という話になり、研究の開始時の審査だけでなく、途中段階のチェック機能を持つことも大事だというまとめになりました。
治験では、計画通りに試験が実施されているかを途中段階でチェックする「モニタリング」や、終了後に試験内容を審査する「監査」がおこなわれます。これはかなり厳しく、莫大な費用もかかるそうです。そのため、臨床研究に同じようなモニタリングや監査を求めると、研究そのものが萎縮するという懸念が出されました。その結果、治験より柔軟に研究責任者が方法や頻度を検討するモニタリング、必要に応じた監査をおこなうようにしてはどうかという結論になりました。
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