COMLでは日常の活動の柱として、これまでに5万4000件を超える電話相談に耳を傾けてきました。その中には「受けた医療の結果に納得がいかない」というご相談も少なくありません。
医療側からの説明に納得できず、「なぜこんな結果になったのか」という原因を知りたい場合は、受けた医療内容を検証する必要があります。具体的に言うと、カルテ開示や証拠保全という手段を使って医療記録を入手し、第三者の専門家(「協力医」と呼ばれます)の意見を聞くことになるのですが、そのためには、親戚や友人に協力医となってくれる人がいない限り、弁護士を介するしかありません。経済的な負担も生じますから、患者側にとっては、とてもハードルが高いのが現状です。
今年10月に医療事故調査制度がスタート
医療事故の問題がクローズアップされた約10年前から、第三者機関―いわゆる「医療版事故調」が必要という議論が湧きあがっていました。厚生労働省でも、2003年頃に検討部会ができて議論が始まりました。
その後しばらく、議論が棚上げになった時期もありましたが、2012年2月に「医療事故に係る調査の仕組み等に関する検討部会」が設けられ、議論が再開しました(私も検討部会の委員の一人)。検討部会における13回の議論の末、2013年5月29日に「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」がまとめられました。この「基本的なあり方」は、同年12月の社会保障審議会医療部会でも承認され、第六次医療法改正(2014年)にも盛り込まれました。そしていよいよ、新たな「医療事故調査制度」が、今年10月にスタートすることになっています。
2年前の「基本的なあり方」で示された方向性
「基本的なあり方」で述べられている医療事故調査は、おおまかにいうと以下のようなものです。まず、医療機関で診療行為に関連する予期せぬ死亡事故が起きたら、遺族に十分説明し、第三者機関に届け出るとともに、速やかに院内で調査を行って、結果を第三者機関に報告します。院内調査の報告書は、遺族にも十分説明した上で開示されます。さらに、院内調査の実施状況や結果に納得が得られなかった場合などは、遺族や医療機関からの依頼で第三者機関自身が調査を行うこともあります(下図)。
このような内容について私は、医療関係者からの「自浄作用を働かせるべき」という姿勢が感じられ、紆余曲折はあったものの、時代の変化と成熟の機運を嬉しく感じたものでした。医療法の改正を受けて、より具体的なガイドラインの作成が急務となり、「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」班(以下、研究班)が立ち上がりました。この問題に関連する医療関係団体や被害者の立場、そして私も協力研究者として約30名のメンバーで話し合いを進めてきました。
ですが、ここでの議論は紛糾し、なかなかまとまりませんでした。そして、2014年11月に、厚生労働省に「医療事故調査制度の施行に係る検討会」(以下、検討会)が別途設けられるに至りました。私はある事情があり、この検討会のメンバーには加わることができませんでした。現在も研究班の班会議は検討会と並行して行われ、まとめられた内容は、随時、検討会に報告されています。
「遺族に開示すべきではない」「法律家の参加は必要ない」
ところがここに至って、「基本的なあり方」から後退し、10数年前の医療界に引き戻るような主張がぶり返し、私は歯がゆいほどの強い危惧を抱いています。
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