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医療問題なぜなにゼミナール

第6回 10月スタート「医療事故調査制度」への不安

落ち着いた「医療不信」が再燃する恐れが・・・

 山口育子=NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長

 こうした主張をするのは、2014年10月に独自のガイドラインをまとめた医療法人協会(以下、医法協)という団体とガイドライン作成メンバー、その関係者の方たちです。医法協ガイドライン推進者は、

「単純ミスは調査対象にする必要がない(*1)」
「院内調査報告書は作成する必要はない(*2)」
「院内調査報告書は遺族に開示すべきではない(*3)」
「再発防止策は院内調査報告書に記載しない(*4)」

【編集部注】*1)十分“予期”し得ると考えられるため *2)医療版事故調は医療安全を目的とするもので、法律上も作成を求める文言はないため *3)医療安全確保のためのものが責任追及の目的で使用されることが想定されるため *4)常設の院内医療安全委員会で検討すべき事項であるため

といった主張を繰り返しています。

 医法協ガイドラインを細かく見ても、院内調査については、「原則として医療事故の生じた医療機関で調査を完結できるよう努力し、安易に外部の専門家に丸ごと依頼しないこと」「紛争化・責任追及を招き有害なので、法律家の参加は必要ない」など、「基本的なあり方」から大きく外れる内容ばかりなのです。また、検討会に提出された報告書には、「妊婦健診では全く医療行為を行っていないので(中略)妊婦健診で通院している妊婦については、死産が発生しても『医療事故』ではない」といった記述さえ見られます。

 ところが、厚労省の検討会ではこの医法協ガイドラインが議論の主要な資料の一つとして位置づけられ、「報告書は開示すべき」「院内調査の結果、再発防止策が考えられるのであれば記載すべき」と異を唱える委員には、医法協ガイドライン推進派委員が徹底的に反論し、ネットや雑誌などで名指しで非難を繰り返すというひどい展開になっています。

 そしてとうとう、医法協ガイドライン 推進派の意見を反映し、厚労省作成の資料の中に、「遺族への説明については、口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明の資料)の適切な方法を管理者が判断する」という書面での説明が“任意”になる通知(案)が出るに至ってしまいました。

遺族が理解、納得できる事故調査を

 繰り返しますが、「基本的なあり方」では、院内調査報告書は開示すべきと明記されていたのです。それすらないがしろにするということが、許されていいはずがありません。

医事関係訴訟事件の処理状況及び平均審理期間
医療訴訟の件数は、一時のピークを過ぎ、落ち着きつつある(出典:裁判所ホームページ)
[画像のクリックで拡大表示]

 そもそも、医療という専門性の高い内容について調査された内容を、口頭のみで理解せよということ自体、多くの遺族にとっては困難です。それに、口頭だけだと思い込んだり、誤った解釈をしたりして、それが独り歩きすると、紛争へとつながる可能性は大きく、それは医療者にとってもプラスに働くとは思えません。

 やはり、本来はきちんと報告書を提示しながら、できるだけわかりやすく丁寧な説明があり、帰宅後に落ち着いて改めて読み直し、再度質問する場が提供される。そのような真摯な対応があって、はじめて遺族の理解、納得に至るのではないでしょうか。それが医療への信頼を築く対応ではないかと思うのです。

 それなのに、報告書を作成しない、あるいは開示しないとなれば、また患者側の医療不信が再燃するのではないかと懸念しています。

医療訴訟に“訴えざるを得なかった”理由

 私は、医療事故調査では、制度の“肝”でもある院内調査のあり方が非常に重要だと思っています。これまで弁護士を介して協力医の意見を聞くしかなかったのが、原則として外部委員を入れて複数の専門家が調査し、議論して結果をまとめることになったのですから、より客観的な検証につながることが期待できます。

 それを丁寧にわかりやすく報告し、遺族の疑問に応えれば、紛争化することは増えるというよりむしろ減るのではないかと、私は確信に近い思いを持っています。弁護士に依頼したり、医療訴訟に訴えたりする人たちの多くは「ほかに方法がないからその手段を選ぶしかなかった」からだ、と長年の電話相談の経験で私自身実感しているからです。

 1999年の横浜市立大病院事件、都立広尾病院事件を境に高まった医療不信がようやく落ち着き、さらに成熟した医療を目指すためには、透明性と中立性の担保が何よりも必要です。ここで再び患者側の医療への信頼を失墜させることが起きないよう、前向きな制度にしていく必要があると強く願っています。私自身、研究班の班会議やこの問題に関する研修会などで精一杯の発言の努力はしていますが、現在起きているこのような現状は多くの人に知られていません。しかし、時間がないのです。何とかおかしな方向への動きを阻止したい―焦燥すら感じる昨今。

 この記事を読んで、読者の皆さんはどう思われますか? 私と思いを同じくする方々、声を上げていきませんか?

【関連連載】
COML患者相談室
COML患者塾

山口育子(やまぐち いくこ)
NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)理事長
山口育子(やまぐち いくこ) 大阪市生まれ。自らの患者体験から、患者の自立と主体的医療の必要性を痛感していた1991年11月、COMLと出会う。「私たち一人ひとりが『いのちの主人公』『からだの責任者』。そんな自覚を持った『賢い患者になりましょう』をキャッチフレーズとした活動趣旨に共感し、1992年2月にCOMLのスタッフとして参加。創設者の辻本好子氏の死去により、理事長に就任。COMLでは、電話相談や各種セミナーなどを積極的に実施。このほか、厚生労働省をはじめとした各種検討会の委員としても幅広く活動している。

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