人は「フレーミング効果」に左右される

このように、表現の違いによって意思決定に影響を及ぼすことを、フレーミング効果と呼びます。ある枠(フレーム)が設定されることにより、感じ方、考え方が変わってしまうことを指しています。カーネマンらは上記の実験から、ポジティブなこと(この実験では「助かる」)が書かれていれば、ネガティブなこと(この実験では「死ぬ」)が起こるかもしれないリスクを避ける方向に、ネガティブなこと(死亡)が書かれていれば、それ自体を回避するため、あえてリスクを引き受ける方向に、選択する傾向があると述べています。
健康や医療に関する何らかの数値に接したら、フレーミング効果を意識して、いったん逆向きの表現をしてみるとよいと思います。たったこれだけのことですが、数値をより客観的にとらえることにつながります。
たとえば、かぜをひいて会社を休んだ人が、市販のあるかぜ薬を飲めば、3日以内にかぜが治る確率が80%と予想されたとしましょう。「3日以内にかぜが治る割合が80%ある」とポジティブにとらえるか、「3日たってもかぜが治らない割合が20%ある」とネガティブにとらえるかで、そのかぜ薬を飲みたいと思うかどうか、気持ちが変化するかもしれません。ふだん健康な人が一般的なかぜにかかった場合、特に薬を飲まなくても、3日以内に治る場合もあるでしょうから、それも判断に影響を与えそうです。
フレーミング効果は、別に健康や医療に限らず、日常生活によく登場します。たとえば、外出時に傘を持っていくかどうかを決める際、天気予報で雨が降る確率が30%と言っていたとすれば、逆に、雨が降らない確率は70%と考えてみる。もしかしたら、傘を持っていくかどうかの判断に影響するかもしれません(天気予報が何と言おうが、カバンの中に常に傘が入っているという人には、関係ありませんが…)。
ただ、現実には、今回例示したように「数字」が明確であることはあまりなく、そもそも「有効である割合」がよく分からないことがほとんどです。つまり、「有効である割合(分子/分母)」を知ろうと思うと、「ある薬が有効であった人数(分子)」と同時に、「その薬を服用した総人数(分母)」が分からなければならないのですが、前者はさておき、後者が示されていないのが一般的だからです。
この点については、次回引き続き考えたいと思います。
医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授
