「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」…。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? 病気にまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。
前回の記事(「5年生存率は30%」と言われたら」)で、がんの5年生存率についてお話ししました。5年生存率とは、がんと診断された人のうち、5年間生きている人の割合のことです。たとえば、「5年生存率が80%」であれば、それは「ある時点でがんと診断された人が100人いたら、そのうちの80人が5年後も生存している」という意味です。
これを逆に考えると、100人のうち20人は、5年後には亡くなっていることになります。人間は、生きているか死んでいるかのどちらかしかありませんので、「80人が生きている」と言うのと、「20人が死んでいる」と言うのは、同じことを逆向きに言っているにすぎません。しかし、与える印象は大きく異なります。
「アジア病問題」が示すもの
この現象を示す有名な実験が、「アジア病問題」と呼ばれるもので、1981年にScience誌に発表されました。論文の著者は、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンと、彼の共同研究者であったエイモス・トベルスキーです。
彼らは以下の問題を設定し、学生に尋ねました。
【問題1】米国は特殊なアジア病の爆発的流行に備えている。この病気が流行すると、600人が死亡すると予想されている。2つの対策が提案されており、それぞれの効果は以下の通りである。あなたならAとBのどちらを選ぶか。
対策A:200人が助かる 対策B:3分の1の確率で600人が助かるが、3分の2の確率で誰も助からない
結果は、Aが72%、Bが28%でした。
彼らは次に、問題2を設定し、別の学生に尋ねました。
【問題2】問題1と同じ状況で、あなたならCとDのどちらを選ぶか。
対策C:400人が死ぬ 対策D:3分の1の確率で誰も死なず、3分の2の確率で600人が死ぬ
結果は、Cが22%、Dが78%でした。
もうお気づきだと思いますが、対策Aと対策Cは、同じことを述べています。同様に、対策Bと対策Dも、同じことを述べています。にもかかわらず、問題1ではAを選んだ人が多数派で、問題2ではDを選んだ人が多数派だったのです。
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- 人は「フレーミング効果」に左右される