一方で、その新しい治療法には、思わぬ副作用があるかもしれません。これはデメリットと言えるでしょう。また、プラセボを対照とする試験の場合、自分がプラセボに当たるかもしれず、これをデメリットと感じる人もいるかもしれません。でも案外、プラセボであっても、本物と信じて飲めば効果があることもあります(プラセボ効果)。
なのは、メリットとデメリットの両方がある(メリットだけ、あるいはデメリットだけといった単純な○×ではない)ことを患者に伝え、患者もそれを認めた上で、比較することです。比較の結果どちらにするかは、患者の自由意思で決めるべきことです。
薬の「見える化」に役立つドラッグ・ファクト・ボックス
比較することの重要さは、治験に限りません。アメリカで考案されたドラッグ・ファクト・ボックス(Drug Fact Box)は、薬の効果と副作用を並べて示し、メリットとデメリットを比較しやすくしました(表)。

表は、ルネスタという薬の臨床試験の結果をまとめたものです。ルネスタを使用した方が寝入るまでの時間が短く、睡眠時間も長かった(メリット)半面、不快な味、感染症、めまいといった副作用(デメリット)も多く見られました。ドラッグ・ファクト・ボックスのポイントは、単に「多い」とか「少ない」ではなく、それぞれに数値が付いていて、どのくらい多いのか、あるいは少ないのかが数値で示されている点です。こうして見ると、メリットとデメリットがより比較しやすくなります。
ドラッグ・ファクト・ボックスの考案者は、できるだけ早く公的に導入するよう、国(FDA:米国食品医薬品局)に働きかけています[1]。日本でもこのような患者用の薬の説明文書があればよいとい思います。
医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授
