将来のリスクを知るには「横断研究」では不十分
今回の調査のように、ある1時点でのデータを調べる研究のことを「横断研究」と言います。一方、時間の経過を追って、スタート時点である条件を満たす人が、その後どうなるかを調べる研究のことを「縦断研究」と言います。
一般に、将来の病気のかかりやすさ(リスク)がどのくらいあるかを知るためには、「横断研究」では不十分で、「縦断研究」が必要とされています。例えば、日本高血圧学会が作成した高血圧治療ガイドライン2014 によれば、診察室で測定した血圧値が140/90mmHgを超える場合に高血圧と判定することにしています。これは、「縦断研究」の結果、血圧が高い人は低い人に比べて、脳卒中や心筋梗塞といった心血管系の病気で死亡するリスクが相対的に高いことが分かったからです(表2)。
「患者」になるかどうかは受診するかどうかで決まる?
ですが一方で、今回の調査で「超健康人」と判定された人、要するに「今はどこも悪くない人」の中に、血圧値が145/92mmHgの人がいる可能性があるということが分かったことも、重要な情報だと思います。145/92mmHgの人は、もしも病院にかかったら高血圧と診断される(=高血圧「患者」になる)かもしれませんが、気になる症状がないのにわざわざ病院に行くことは考えにくく、そして、病院に行かなければ高血圧と診断されることもありません。
つまり、145/92mmHgの「人」が高血圧の「患者」になるかならないかは、病院に行くか行かないかで決まることになります。
たとえ気になる症状がなくても定期的に人間ドックに行くべきと考えるか、気になる症状がないのなら行かなくてもよいと考えるかは、必ずしも医学上の理由だけでなく、一人ひとりの考え方も関係するでしょう。自分は病気かもしれないという不安に煩わされることなく毎日を過ごしたいと願う人が多いからこそ、“緩め”の値に関心が集まったのではないかと思います。
「どこも悪くない」ことを確認するために人間ドックに行くタイプと、「どこか悪いかもしれない」と言われるのがイヤで人間ドックに行かないタイプ、あなたはどちらですか?
医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授
