「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」…。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? カラダにまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。
医療の世界では、「100%」はめったに起こりません。医療ミスを完全にゼロにする(100%防ぐ)のは至難の業でしょうし、インフルエンザを100%予防するワクチンもできていません。患者にとっても、指示された通り100%きちんと薬を飲むのは、意外に難しいものです。
薬の効果についても同じです。どの患者にも必ず効く、言い換えれば「100%有効」な薬があればよいのですが、実際には、効く人もいれば、効かない人もいます。そのため、薬の効果は効いた人の「割合」で判断することになります(「TVショッピング番組では明らかにされない大事なこと」)。
RE-LY試験から効果の大きさを考えてみる
前回の記事(「医薬品の広告に「相対的表現」が多い理由」)で、ダビガトランという血液が固まりにくくする薬を、ワルファリンという別の薬と比較した臨床試験(RE-LY試験、N Engl J Med. 2009; 361: 1139-51.)を紹介しました。心房細動の患者が、脳卒中を予防するために用いる薬です。脳卒中または全身性塞栓症を起こした人は、ダビガトラン(150mg群)では1年当たり発症率が1.11%、ワルファリン群では1.69%でした。ダビガトラン群で発症率がより低かった、つまり、脳卒中をより多く予防できたことになります。ここでも薬の効果が割合(%)で記載されています。

では次に、脳卒中や全身性塞栓症を起こしてしまう人をあと1人減らす(予防する)ためには、何人の患者に、ワルファリンではなくダビガトランを飲んでもらう必要があるのか、という点について考えてみましょう。私自身の経験では、この種のことを考える場合は、パーセントで考えるより実数で考えるほうが理解しやすいです。そこで今回も、実数に置き換えることにします。
まず、ダビガトラン群、ワルファリン群がそれぞれ1万人いたとします。つまり、1万人がダビガトランを飲み、別の1万人がワルファリンを飲んだとします。
1年後に脳卒中または全身性塞栓症を起こした人は、RE-LY試験の結果を当てはめると、ダビガトラン群では1.11%なので111人、ワルファリン群では1.69%なので169人いたことになります。その差は58人です。この58人は、「ワルファリンを飲む代わりにダビガトランを飲んだことにより、脳卒中を予防できた人数」といえます。
ここまでをまとめると、1万人がダビガトランを飲み、うち58人が、ワルファリンを飲む代わりにダビガトランを飲むことによって脳卒中を予防できたことになります。
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