「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」…。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? 病気にまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。

本連載で紹介しているような、病気にまつわる種々の数字の多くは、臨床研究で得られたものです。臨床研究では、大勢の人から得られたデータを統計解析して結果を出すことが多いのですが、そこでよく使われるのが「P値(ぴーち)」です。「p=◯◯◯」「p<△△△」と書かれたグラフや図を目にしたことがある人も多いと思います。
P値のPとはProbability(確率)のこと。ある仮説が正しいとした場合に、観察されたデータ(またはそれより極端なデータ)が生じる確率を指します。P値は確率なので、「0(まったく起こらない)」から「1(必ず起こる)」の間のいずれかの値を取ります。
差がある、差がないはどうやって判定する?
たとえば、ある病気の治療薬として、AとBの2種類があったとします。患者に使ってみたところ、有効だった割合は、Aでは70%、Bでは80%でした。一見すると、Bの方がAより効果が高そうですが、たまたまそうだっただけかもしれません。
そこで検定を行います。検定では、AとBの効果に差がないと仮定(これを帰無仮説*という)した場合に、今回のようなデータ(A70%、B80%)が得られる確率(P値)を求めます(実際の計算方法については省略します)。
*帰無(きむ)仮説とは、比較する両群の間に関連性がないとする仮説のこと。両群間に関連性があることを証明したい場合に、まずは「関連性がない」という帰無仮説を置き、それを否定するというロジックが用いられる。
もしP値が大きければ(1に近ければ)、「実は差がないのに偶然にこういうデータが得られる確率は高く、特にめずらしくない」と考え、AとBに差がないとした帰無仮説は正しいと判断します。逆に、P値がものすごく小さければ(0に近ければ)、「実は差がないのにこういうデータが得られる確率は低く、滅多にない」と考えます。そして、滅多にないのであれば、もともとの帰無仮説が間違っている、すなわち、AとBには差があると判断するのです。
「差がある」ことを言うために、いったんは「差がない」としておいて、それを否定するというプロセスを踏むわけです。
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