日経グッデイ

病気にまつわる数字の話

医薬品の広告に「相対的表現」が多い理由

「2割引」と「1000円引き」、どちらがお得?

 北澤 京子=医療ジャーナリスト

「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」…。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? カラダにまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。

東京のおばちゃんと大阪のおばちゃんの違い

 インターネットの質問サイトで「東京のおばちゃんと大阪のおばちゃんは、どこが違うのですか?」という質問を見つけ、つい読んでしまいました(私は現在、大阪に住んでいるのです)。回答は「東京のおばちゃんは、自分の持ち物の中で高いものを自慢するが、大阪のおばちゃんは、自分の持ち物の中で安いものを自慢する」。

 確かにその通りです。大阪のおばちゃんが、「これ、いくらで買ったと思う?」と話しかけてきたら、見た目よりちょっと安い(けれど極端には安くはない)値段を言うのがエチケット。おばちゃんは「そう見える? 実はバーゲンで○○やってん」と、予定通り(?)、さらに安い値段で買ったことを自慢してくれます。

お得な印象を受けるのはどっち?

一般的に、相対的表現の方が効果が大きい印象を受ける。(©marinini-123rf )

 上のセリフで○○に入る、値引きを表す表現には2種類あります。1つは「1割引」「7掛け」「半額」など値引きの“割合”を示す方法で、もう1つは「1000円引き」「1万円引き」など値引きの“絶対額”を示す方法です。前者は値引きの“相対的”な表現、 それに対して後者は“絶対的”な表現と言い換えることができるでしょう。

 面白いことに、値引きを相対的に言われるのと、絶対的に言われるのとで、受ける印象が異なります。例えば、5000円の商品を、4000円で買ったとしましょう。相対的な言い方だと「2割引」、絶対的な言い方だと「1000円引き」で買ったことになります。2種類の言い方を比べると、相対的な言い方のほうが、より“お得”な印象を受けるのではないでしょうか。

 ですが、もちろん、実際にどれだけ“お得”なのかは、その商品の元の値段によって違います。元の値段が5000円なら、「2割引」と「1000円引き」は同じ(5000円→4000円)ですが、2万円だった場合、「2割引」なら1万6000円、「1000円引き」なら1万9000円となり、2割引の方が安く買えます。しかし、2000円だった場合、「2割引」なら1600円、「1000円引き」なら1000円なので、むしろ1000円引きの方が安く買えることになります。つまり、元の値段が高いほど、“相対的”な値引きの方が、実際に“お得”になるわけです。

効果が大きい印象を受ける「相対的表現」

 病気の予防効果でも、同じことが言えます。ある予防法(薬、運動など)の効果を表す方法には、“相対的”な言い方と“絶対的”な言い方があります。そして、相対的な言い方の方が“お得”、つまり効果が大きい印象を受けます。

 従来、心房細動(心房に不規則な電気の流れが起き、細かく動いて脈が乱れる病気)のある人に対して、脳卒中を予防する目的で、ワルファリンという薬が用いられてきました。何年か前にダビガトランという薬が開発され、両者を比較する臨床試験が行われました(RE-LY試験、N Engl J Med. 2009; 361: 1139-51.)。

 RE-LY試験の結果、ダビガトラン150mg群(150mg×1日2回服用)はワルファリン群に比べて、脳卒中または全身性塞栓症の発症が34%、つまり約3分の1減少しました。これは“相対的”な言い方ですね。脳卒中や全身性塞栓症は命にかかわる病気ですから、それが3分の1も減ったというのは、臨床的に大きな意味があります。実際、ダビガトランが米国で承認された直後に、米国の心房細動の診療ガイドラインが改訂されました。

 下は、RE-LY試験の結果を示した図です。ダビガトラン150mg群は、ワルファリン群に比べて、脳卒中または全身性塞栓症を起こした人が少なかったことが分かります(縦軸が発症率、横軸が時間の経過です)。

 しかし、ここで図の縦軸に注目してください。縦軸のいちばん上は0.05、つまり5%です。この縦軸を1(100%)にしたら、3本の折れ線がほとんど重なっているようにしか見えません(下図)。

 これはつまり、相対的な言い方をすると効果が大きく見えるが、脳梗塞または全身性塞栓症を起こす人がそもそも少ない(買い物の例にあてはめれば、元の値段が安い)ので、絶対的な言い方をすると、それほど大きな違いはないということです。論文によれば、ワルファリン群では1年当たりの発症率は1.69%、ダビガトラン150mg群では1年当たり1.11%なので、絶対的な言い方をすれば、1年当たり0.58%(1.69-1.11)少なかったことになります。「3分の1減った」に比べると、受ける印象が異なります。

 つまり、効果をアピールしたければ、相対的な表現の方が有効です。実際に、医薬品の広告では、臨床試験の結果を表す際、相対的な言い方をしていることが多いのです。

北澤 京子(きたざわ きょうこ)
医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授
北澤 京子(きたざわ きょうこ) 著書に『患者のための医療情報収集ガイド』(ちくま新書)、訳書に『病気の「数字」のウソを見抜く:医者に聞くべき10の質問』(日経BP社)など。(撮影:直江竜也)