「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」…。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? 病気にまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。
以前の本連載で、がん検診が有効であるかどうかは、がんの「発見率」や「生存率」が上がることではなく、「死亡率」が下がるかどうかで決まるということをご紹介しました。
乳がん検診は40歳以上が対象

現在、市町村が行う乳がん検診は、40歳以上の女性を対象に2年に1回の頻度で、マンモグラフィー検査を行うことを原則としています(厚生労働省「がん検診のあり方に関する検討会中間報告書」、2015年9月)。その理由として、「検診開始年齢が40歳以上であれば、検診により乳がん死を防ぐことができるベネフィットが、検診による放射線被ばくの不利益で死亡するリスクを上回る可能性が示されている」からだと説明しています。ここで「乳がん死を防ぐ」とは「乳がんによる死亡率が減少する」という意味です。ちゃんとメリットとデメリットを比較しています。
ただし、乳がん検診の対象者や中身は全国一律ではありません。たとえば大阪市や京都市では、30歳代の女性も、超音波検査による乳がん検診を受けられます(40歳代以上はマンモグラフィー検査)。人間ドックでも、乳がんの検査としてマンモグラフィーに加えて超音波を取り入れているところもあるようです。
超音波検査はマンモグラフィーと違って放射線被ばくがないというメリットがありますが、検診としての有効性については結論が出ていません。先の中間報告書でも「将来的に対策型検診として導入される可能性があり(中略)引き続き検討していく必要がある」と書かれています。
現在、マンモグラフィーに超音波検査を上乗せする群と、マンモグラフィー単独群とを比較するランダム化比較試験(J-START)が行われているところです。超音波検査を上乗せすることにより、乳がん発見の感度(本当に乳がんの人が検査陽性になる確率)は上がるものの、特異度(乳がんではない人が検査陰性になる確率)が下がってしまうというJ-STARTの結果が発表されました(Lancet Oncology.2016;387:341-8.)。特異度が下がるということは、乳がんではないのに検査で陽性と出てしまう、つまり偽陽性の割合が増えるということです。大阪市や京都市が乳がん検診に超音波検査を取り入れている(しかも30代で)のは、もしかしたら偽陽性の人に余計な不安を与えているのかもしれません。
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