日経グッデイ

病気にまつわる数字の話

病院に行く? それとも市販薬で済ます?

選択に迷ったら「2×2」で考えよう

 北澤 京子=医療ジャーナリスト

「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」…。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? 病気にまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。

 毎日の生活は、選択の繰り返しです。今日のランチのメニューを「ハンバーグ定食」にするか「お刺身定食」にするかといった小さな選択(といっても、意外に重要なこともありますが…)もあれば、自宅を購入する際に「マンション」にするか「一戸建て」にするかといった、大きな選択もあります。

 健康や医療に関してもまったく同じです。テレビショッピング番組で見かけた健康食品を買うか、買わないかといった選択もあれば、がん治療で手術にするか放射線にするか、といった選択もあるでしょう。前回の記事(「血液をサラサラにする薬」の効果のほどは?)で紹介したランダム化比較試験(JAMA. 2014; 312: 2510-20.)は、高血圧や糖尿病などの病気を持つ高齢者(60~85歳)が、将来、心筋梗塞や脳卒中を起こさないように、予防的にアスピリンを飲むか、飲まないか、という選択を検証するために行われました。

 健康や医療に関して、もし2つ以上の選択肢があるのなら、そして、そのうちのどれにすべきか迷っているのなら、比較して考えてみることが大切です。さらに言えば、特に迷っていなくても、とりあえず比較してみると、選択のためのヒントが得られるはずです。

2×2のマス目を埋める

表1

 その際におすすめの方法は、「2×2」のマス目をつくって考えることです。アスピリンのランダム化比較試験では、アスピリンを飲んだ人(アスピリン群)は7220人、飲まなかった人(非アスピリン群)は7244人でした。そこで、表1をつくります。この段階ではまだ「2×2」ではありません。

 次に、この試験で問題となった、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)のために死亡したり、死亡はしなくても心筋梗塞や脳卒中を起こしてしまった(これをアウトカムという)人数を調べます。論文によると、アスピリン群では193人、非アスピリン群では207人でした。

 アウトカム(+)の人以外、つまりアウトカム(-)の人は、心筋梗塞や脳卒中を起こさなかった人です。それぞれの群の人数からアウトカム(+)の人数を引けば、アウトカム(-)の人数が分かります。この情報を加えて、表2をつくります。表2において赤枠で囲ったマス目のことを、「2×2」表と呼ぶことが多いです。

表2

 表2をパーセントの形で表したのが表3です。

表3

 2×2表の形にデータをまとめると、アスピリン群と非アスピリン群の比較が簡単にできます。アウトカム(+)とアウトカム(-)の比較も簡単です。アスピリン群でも非アスピリン群でも、アウトカム(+)の人が約3%、逆にアウトカム(-)の人が約97%です。つまり、ほとんどの人が、この試験期間中に心筋梗塞や脳卒中を起こさずに済んだということがわかります。2×2表を作成することにより、「比較」と「フレーミング」(関連記事:「200人が助かる」と「400人が死ぬ」は同じ?違う?」)の両方が一目瞭然になるのです。

選択肢は1列目、結果は1行目に書く

 2×2表は、あらゆる場面で役に立ちます。その際、約束事として、「選択肢は1列目、アウトカムは1行目」と決めておくとよいと思います。

 たとえば、花粉症の症状はつらいけれど、仕事が忙しくて時間がとれない…という場合に、会社を半日休んで病院で治療を受けるか、会社の近くの薬局で市販薬を買って済ませるか、という選択肢があったとします。これが1列目です。

 1行目に書くアウトカムにはいろいろ考えられます。症状が軽くなるかどうか、薬の副作用があるかどうか、待ち時間がかかるかどうか…。気になるアウトカムをできるだけたくさん考えて、その数だけ2×2表をつくります(表4)。「副作用で眠気が出るかどうか」とか「目のかゆみが気にならなくなる」といった、より具体的なアウトカムも考えられます。

表4

 2×2表をつくったら、自分のできる範囲で数値(予想される割合)を埋めていきます。例えば、「待ち時間負担感」であれば、「病院で治療」は「あり」が90、「なし」が10、「薬局で市販薬購入」であれば、「あり」が10、「なし」が90といった具合です。検討がつかなければ、薬局で薬剤師に質問する手もあります。2×2表が多すぎて、結局どうすればよいか迷ったら、「自分にとっていちばん重要なアウトカム」を優先します。

 私たちはふだん、自分でも気がつかないうちに、頭の中で2×2表をつくっているはずです。それを表にして「見える化」することにより、早とちりや、それによる誤解が減るのではないかと思います。実はここで、アウトカムをどう設定するかは、かなり重要です。それについては次回に改めて考えたいと思います。

北澤京子(きたざわ きょうこ)
医療ジャーナリスト・京都薬科大学客員教授
北澤京子(きたざわ きょうこ) 著書に『患者のための医療情報収集ガイド』(ちくま新書)、訳書に『病気の「数字」のウソを見抜く:医者に聞くべき10の質問』(日経BP社)など。(撮影:直江竜也)
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