日経グッデイ

自分のこころのトリセツ

「不安が拭い切れない」こんなときどうする?

不安は未来をシミュレーションする力

 下園 壮太=メンタルレスキュー・インストラクター

これから起こることを考えると、言いようのない不安に襲われる―不安とは、未来を予測するからこそ起こる感情です。過剰な不安は後悔や焦りを引き起こし、人のエネルギーを消耗させる原因にも。不安な気持ちから解放されるには、誰かに打ち明ける、意識をそらす、少し距離を置くことなどを試してみましょう。

不安とは、「とりつかれる」という言葉がぴったりなくらいしつこい感情です。(©Helder Almeida-123rf)

 「不安」は誰もが感じる感情です。意外に気づきにくいのですが、「とりつかれる」という言葉がぴったりなくらいしつこい感情です。というのも、不安という感情は、もともと人間が危険を察知するために磨き上げてきた、一種の予知能力のようなものであり、人間の「生命」を守ることに直結する感情なので、理性で抑え込もうとしても、すごく難しいのです。

 太古の昔、人間は外敵に対して非常に弱い生き物でした。虎が目の前に現れてから逃げるのでは遅い。生き残るためには、どんなところに虎が現れる可能性があるか、将来を予測し、シミュレーションする力=不安力を磨く必要があったのです。

 その一方で、不安はモチベーションを高める原動力にもなります。

 不安を感じるということは、このままでは将来厳しいぞ、と予測すること。不安を感じるからこそ、人は能力を高める行動を起こすことができるのです。

 ただ、現代を生きる私たちにとって、不安は必ずしも前向きな行動の原動力ではなく、むしろ、マイナス方向に引っ張られる要因になることが多い。なぜなら、原始人モードで発動する「過剰な不安」は人のエネルギーを消耗させるからです。

 不安があると、常にそのことが頭に引っかかり、すべきことに集中できない、という状態になります。いわば、パソコンに重たいデータを延々とダウンロードし続けているようなもので、作業スピードは落ち、心身は消耗していきます。

 また、不安は雪だるま式に拡大していくという性質も持っています。

 たとえば「私は嫌われている?」と不安を抱くと、本能は危険な兆候を見逃さないようにしようと、周囲のものすべてを「自分に危害を与えるのではないか?」と不安モードで見つめるようになります。すると、だんだん、世の中の人すべてが自分をうとましく思っているように思えてくるのです。

不安は「後悔」や「焦り」を引き寄せる

 さらに厄介なことに、不安という感情は、「後悔」や「焦り」とも仲良しです。

 不安は、将来をシミュレーションする感情、と言い換えることもできますが、将来を予測しようとするとき、人は同時に過去を検索するのです。過去に同じようなことはなかったかと思い返すうち、幼いころの出来事などすっかり忘れていた記憶まで引き出してきては後悔する。そして、特に今何かしなければならないわけではないのに、やみくもに焦り、イライラだけが表面化してしまうこともあります。

 このように、不安という感情は負の感情を総動員しがちなので、人は「不安を感じるからいけないんだ。感じないようにすればいい」と、不安な感情そのものを打ち消そうとしてしまいがちです。でも、意識的に感じないようにしても、不安は本能からわいてくる感情なので、心のどこかに漠然と引っかかっていたり、体調不良というかたちで表れてくることもあります。

 では、不安な気持ちになったとき、どんな方法で対処すればよいのでしょうか。

 最初にアドバイスしたいのは「もうどうなってもいいや!」と開き直ることも一つの有効な方法である、ということです。開き直ることはダメなことのように思われがちですが、私は不安な感情にとらわれることをいったん打ち切る、という意味で、実は、非常に健全な対処法だと思っています。不安に翻弄されることによってエネルギーを消耗し、心をむしばまれてしまうことのほうが、よほど問題です。

 でも、開き直るなんて大胆なことはできない、という人もいるでしょう。そんなときは、不安な気持ちを誰かに話してみるのも有効です。悩んでいるときは怪物のように思えていた不安が、言葉で表現することによって小さくしぼんでいくことも結構あるものです。

 また、深呼吸など、体の動きのみに集中することもお薦めです。心の中で渦巻く不安に向いた意識を体に「そらす」ことで、新しい発想が生まれることがあります。

 それでも不安が居座るなら、思い切って不安に対して「何もしない」ことにしましょう。不安な気持ちと戦うことをやめるだけでも、「不安を抑えようとして、うまくいかずに自分を責める」というしんどい状態からは解放されます。不安の感情を無視せず、かといって敵視もしないことによって、少なくとも感情を抑えようとするエネルギーの消耗を止めることができるのです。

[まとめ]不安が居座ったら、開き直ったり、体に意識を向けたりしてみよう
(1)最悪の事態が起きる確率をイメージする

 今、不安に思っていることが最悪のケースに発展したら? と思い浮かべてみましょう。命に関わるような深刻なことにはまずならないはず。あわせて、最悪のケースになる「確率」も想像してみます。その確率がわずかであれば、「もういいや!」と開き直ることができるでしょう。

(2)体に意識を集中させる

 不安にとりつかれた状態から、一瞬だけ意識を体へと「移す」ために、ゆっくりと深呼吸することに意識を集中します。肩や腕、首などの筋肉を縮めてからふーっと脱力。人にほぐしてもらうより、実は効果的。自分自身の意識で体を動かすことによって、不安への集中をゆるめるのです。

(3)不安をまるごと認めてしまう

 不安の感情は、本能が自分を守るために育てた感情です。不安に心を占領されることは誰にでもあることで、小心者や臆病者だからではありません。不安と戦おうとせず、不安を認めることによってもずいぶん気持ちは楽になり、エネルギーの消耗を食い止めることができます。

(まとめ:柳本 操=フリーライター)

『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載


下園 壮太(しもぞの そうた)
メンタルレスキュー・インストラクター
下園 壮太(しもぞの そうた) 1959年鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)インストラクター。2009年に第8回「国民の自衛官」に選ばれる。「学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ」(日経BP社、2013年9月発行)などの著書がある。

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