日経グッデイ

自分のこころのトリセツ

「嫌われるのが怖い」 こんなときどうする?

完全に敵から目を背けられなくても、離れる時間を増やす

 下園 壮太=メンタルレスキュー・シニアインストラクター

「嫌われる」ことを人間の本能は「命を狙う敵がいる」と感じます。だから、自分のことを嫌っている人や苦手に感じる人がいるとすごく消耗するのです。嫌われるのが怖い、という気持ちとどんなふうに折り合いをつければいいかを考えましょう。

嫌われることも、嫌うことも、本能と密接に結びついているからこそ、人はそのことにこだわってしまい、知らず知らずのうちにエネルギーを消耗します。(©bowie15-123rf)

 人から嫌われるって、嫌なものです。心がざわつくし、惨めだし、傷つくし。嫌われたくないと思うあまりに周囲に気を遣いすぎて疲れ果て、「いったい私、何をやっているんだろう」と自分を責めてしまうこともあります。

 「嫌われたくない」という感情を原始人モードでとらえてみましょう。

 かつて、100人ほどの村で築かれた人間関係は、一生、変えられないものでした。私自身が生まれ育った田舎もそうです。その町を出るまでは、ずっと同じ友達と、同じ人間関係が続いていきます。そんな中で決定的に人間関係が壊れるということは、自分がかなり「生きづらくなる」ことを意味しました。

 人間が「生きる」という最終目標を達成するために、まずはこれができていれば大丈夫、と目指す「原始人の中間目標」は、「仲間を作る」「愛される」「能力をつける」「群れの中で一番になる」の4つである、と私は考えています。これらの要素が満たされると今でも人は心穏やかに生きていけます。反対に、満たされないと不安になります。

 中でも、「嫌われる」ことは、一つ目の「仲間を作る」が否定されることです。命の危機に陥っても助けてもらえない、食糧も分けてもらえない。現代は原始時代と違って一つの集団の中で孤立しても、場所を変えれば生きていくことができるはずなのに、「嫌われたかも」と思ったとたん、原始人の本能は「嫌われたくない、だって、嫌われたら自分は生きていけない」と騒ぎ出します。

 たとえば、職場の一人があなたを攻撃してきたとします。すると、本能は相手のことを「自分を殺すかもしれない敵だ」と過剰反応します。敵の動きを察知しないと命を守ることができない。だから、職場では絶えずその人の話し声ばかりが耳に飛び込み、目線も行動も気になります。相手からは遠ざかっているはずなのに、帰宅している最中も、家に帰って布団に入っているときも、相手のことを考えてしまうのです。

 このように、嫌われることも、嫌うことも、本能と密接に結びついているからこそ、人はそのことにこだわってしまい、知らず知らずのうちにエネルギーを消耗します。悩んでいるうちに疲れ切って、うつ状態になってしまうことも多いのです。

「嫌われる訓練」で今よりも強くなれる

 嫌われたくない、という感情にがんじがらめになる前に、まず、嫌われたくないと思っている自分の感情を認めましょう。他人の顔色が気になるのは当たり前。誰だって嫌われたくなくて、右往左往するものなのです。

 そしてもう一つ大事なことは「たとえ嫌われても、独立して生きていけるよう自分をトレーニングする」ことです。周囲に気を遣いっぱなしの人生はやっぱり疲れます。嫌われたくない自分もありだけど、その一方で、独り立ちできる強さを身につける練習を始めておきましょう。

 じゃあ、何をすればいいのか。「嫌われる訓練」です。嫌だな、と思ったときは感情を押し殺さず、ほんの少しだけ相手に嫌な表情や声で表現してみるのです。そして「よくできた。すごくいいバランスで嫌な感情を出せたよ!」と大いに自分をほめてやりましょう。

 いじめにあったり、ネット上で中傷を受けたりするなど、深刻な状況もあるでしょう。そんなときにも、対処する方法はあります。

 つい「気にしなければいいじゃん。そのことをきっぱり考えなくすればいい」などと思いがちですが、やはり「敵」に関する情報ですから完全に目を背けるのは難しいものです。

 一つのやり方としては「嫌な刺激を与える人、あるいはモノから距離を置き、接触時間を短くする」ことです。会社を早退するのもあり。自分をストレス源から物理的に離してやるのです。

 また、今ある人間関係は、一生続くものではありません。むしろ、自分がのびのびとしていられる、新しい人間関係のほうを大事に育てることでつらさを中和したほうが、ずっと楽になれます。

 もちろんこれらの対処だけで、直ちに、問題が解決するわけではありません。そのときどきにできる対処法を探しながら、自分らしくいられる方法を見つけていきましょう。

[まとめ]「嫌われてもいい」と思える心の強さを育てていこう
(1)「嫌われたくない自分」を認めよう

嫌われるのが怖くて誰にでもいい顔をし、行きたくない飲み会に付き合って余計に疲れてしまったときも、「だって、嫌われたくないものね」と自分の感情を認めましょう。弱くて不器用な自分を否定せず、受けいれることによって、「自分を責める」というエネルギー消耗を止めることができます。

(2)「嫌われる訓練」をしてみよう

元気なときなら、思い切って「嫌われる訓練」を試してみましょう。苦手な相手に少しだけ「嫌だな」という表情をし、口調で感情を表現してみる。そのたびに「よくやった。感情を出せた」と自分をほめましょう。この繰り返しによって「嫌われてもいいと思える強さ」が身についてきます。

(3)距離を置き、時間を短くする

つらいと感じる環境や相手からはできるだけ距離を置き、その相手と過ごす時間を極力短くしてみましょう。職場を変わる、嫌な人間関係とは決別する、という対策が大事なときもあります。反対に、自分が大切に思う人と過ごす場所や時間を、より大事にすること。つらい気持ちを中和するのに効果的です。

(まとめ:柳本 操=フリーライター)

『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載


下園 壮太(しもぞの そうた)
メンタルレスキュー・シニアインストラクター
下園 壮太(しもぞの そうた) 1959年鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)シニアインストラクター。2009年に第8回「国民の自衛官」に選ばれる。「学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ」(日経BP社、2013年9月発行)などの著書がある。

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