日経グッデイ

自分のこころのトリセツ

「わけもなくイライラする」こんなときどうする?

わけもなくイライラするときは感情がSOS信号を出している

 下園 壮太=メンタルレスキュー・インストラクター

他人からすると迷惑でしかないイライラ。その矛先は時に、職場の人やパートナー、子どもや高齢者に向けられます。イライラしていることに気付いたら、それは「感情からのSOS信号」ととらえ、背負い込んでいる疲労をいやすことに努めましょう。

イライラしているのは、誰かが悪いわけでも、自分に我慢が足りないからでもなく、疲れがピークになっているからなのかもしれない、と振り返ってみてください。(©Akaradet Chomyong-123RF)

 震災直後から全国を回り、カウンセリングを続けてきましたが、被害を受けた地域でも、そうでない地域でも共通して「イライラしている」人が増えている、と感じた時期があります。

 ちょうど震災から1年が経過したころのことです。特定の人との人間関係を悪くしているクライアントに「無理はないですよ。今は震災のせいでみんながイライラしてるんですよ」と話すと、「えっ、だってずいぶん前のことじゃないですか」と驚かれました。でも、本当なのです。大きな出来事による、さまざまな心の後遺症は、出来事から半年、1年たったころまで長引くことが多いのです。もっと言うなら、今でも、多くの人が影響を受けています。

 震災のようなショックな出来事を経験すると、人は神経過敏になり、不安になります。少し揺れるだけの地震にも非常に敏感になり、情報を絶えず求める。常に警戒のアンテナを立てているので、心身のエネルギーを絶えず消耗し続けています。ただ、数カ月間は緊張感のほうが強いため、比較的元気かつ冷静に活動ができるものです。しかし、その緊張感がゆるんだときに、大きな疲労感やイライラを感じるようになります。

 消耗するとイライラするのは、人間に共通する本能的なプログラムです。弱っているときは敵に付け込まれやすいので、イライラすることで自分の命を守ろうとします。また、自分でもわけのわからないイライラは、自分の仕事を増やす原因となる職場の人やパートナー、あるいは怒りを向けても反撃しない子どもや高齢者などに向くことが多いのです。

うつ状態からの回復期にも、イライラが起こりやすい

 イライラはエネルギーを放出しようとする感情ですから、ため込むとつらい。そのため、常に「当たる」ターゲットを探します。

 だからといって特定の人に当たっていては、人間関係を悪くするだけです。

 さらにもっといけないのは、“当たりグセ”がつくことです。その人を見ただけでスイッチが入り、イライラをぶつけるようになる。次第にそんな自分を責めるようになり、うつ症状に陥ってしまうこともあります。

 イライラしているのは、誰かが悪いわけでも、自分に我慢が足りないからでもなく、疲れがピークになっているからなのかもしれない、と振り返ってみてください。

 忙しさや、心配ごとが続いて、少し精神的に参ってしまって、その疲労がイライラとなり、周囲との人間関係に不協和音を起こしている。そのストレスがまた疲労を加速させている。このような状況なのに、「がんばる自分」をやめられない人は、そんな自分にもイライラしてきて、自己嫌悪を強めていきます。

 わけもなくイライラ感が続いているなら、「感情がSOS信号を出しているんだな」と気づきましょう。それがわかれば、本当の意味で「ペースダウンしよう」と思えるのです。

 単純に、嫌だなあという相手が身近にいてイライラする、というときであればコンサートや遊園地で発散し、嫌な思考を中断させるという対処法ですっきりできるかもしれません。しかし、蓄積疲労によるイライラにこのような“はしゃぎ系”は厳禁。たとえそのとき楽しくても、疲れが上乗せされ、翌日には確実にイライラが増してしまいます。

 八つ当たりした相手との関係を修復しようと、あれこれ手を尽くそうとしても、疲れているときにはうまくいく確率は低いでしょう。顔を見ればイライラする、という状態になっている相手だとなおさらです。目の前にケーキがあれば食べてしまうのと同じ。ならば、「ケーキをなくす」のが現実的な対処法になります。

 イライラ感情を引き起こしやすい人間関係からはなるべく距離を置きます。他の用事を作るなどして、イライラする相手とはできるだけ顔を合わせずにすむように、対処してみましょう。

 じわじわと蓄積してきた疲労ですから、すぐには回復できないかもしれません。しかし、疲れてしまったことを認めて自分をいたわることができれば、目の前の人にいつもより優しくなれるかもしれません。人間には、そういう単純なところもあるのです。

[まとめ] ゆっくり休んで心身をいたわれば少しずつよくなる
(1)疲れのせいかも、と振り返る

 イライラしていると「身近な人が悪い」「世間が悪い」などイライラの標的を作り出したくなるものです。でも、人に当たってばかりいると人間関係は悪化し、いつしか自分を責め、落ち込みがもっとひどくなります。イライラしているのは、自分に疲れがたまっているせいかもしれません。振り返ってみましょう。

(2)自分をいたわるような休み方をする

 蓄積疲労によって起こっているイライラは、通常のイライラのような“はしゃぎ系”で対処するとかえって悪化します。本当の意味で疲れを癒やすことができるのは、ほっとできるような休み方。マッサージを受ける、おいしいものを食べるなど、心身がほぐれるような休み方を見つけましょう。

(3)当たってしまう相手とは距離を置く

 当たってしまったら、相手との関係を修復したくなるものですが、自分が消耗しているときは何をやってもうまくいかないもの。当たる相手が身近な家族などの場合は、思い切って2~3日ほどホテルに一人で泊まるなどして、距離を置くのも手。イライラスイッチが入らなくなり、冷静になることができます。

(まとめ:柳本 操=フリーランスエディター)

『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載


下園 壮太(しもぞの そうた)
メンタルレスキュー・インストラクター
下園 壮太(しもぞの そうた) 1959年鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)インストラクター。2009年に第8回「国民の自衛官」に選ばれる。「学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ」(日経BP社、2013年9月発行)などの著書がある。

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