飲み会に行くのが苦痛、人と会うとぐったり…。そんなときは無理せず、静かに「こもる」ことが大切です。人からも情報からもしっかりと距離を置くことで、必ず元気を取り戻せるときがやってきます。

飲み会に誘われることがとんでもなく苦痛になることがあります。
疲れていると、人は「集まり」が苦手になり、一人きりでいたくなるものです。このような状況を「引きこもり」とか「社交性がない」と呼んで、ネガティブなイメージを抱く人が多いかもしれません。
でも、人間は危機に陥ったときに「自分を守る」ために「引きこもろうとする」本能を持っているのです。
身内の死に直面したり、けがや病気をしたりしたときは、その人の生きる力(戦力)はがくんと落ちます。こんなときは下手に外に出るより家にこもっているほうが、危険を回避できる。だから心身は自然な流れとして「引きこもりモード」になります。
食欲も性欲も知識欲もなくなり、楽しいことを味わいたいという気持ちもなくなる。なぜなら、弱っているのに楽しいことに興味を抱くと、外に出たくなって、結果、外敵に狙われてしまうからです。何もしたくなくなるのは、弱った自分を守るために非常に大事なメカニズムといえます。
このような本能的な引きこもりモードが、人間には原始時代から脈々と受け継がれてきました。
ところが、現代人の引きこもりはちょっと様相が異なってきています。健康で、特に身近な人と死別したわけでもないのに、引きこもりたくなってしまう。それは、心が疲れ果ててしまっているからなのです。
心の疲れの背景にあるのは、膨大な情報量、昼も夜もない活動時間、移動の激しさなど。特に「不安をかきたてるような情報」は感情を大きく揺さぶり、心を疲れさせる最たる要因となります。
理想的な引きこもり期間は、3日から1週間
人に会うのが怖くなる、会うとすごく疲れてしまう。そんなときは、人と会うことを自ら制限し、引きこもるのが賢いやり方です。
病院が術後の患者を「面会謝絶」にするのは、エネルギーをすり減らす原因となる「人との関わり」を断つことが、回復にとって大切だからです。「元気になるため」と割り切って、罪悪感や劣等感などを抱かず引きこもりましょう。
目安としては、土日も組み合わせて3日から1週間、休養をとるのが効果的です。
しっかりと睡眠をとり、日中は空をぽかーんと眺め、人や物音などの刺激が少ない場所でぶらぶらする。ゆったりすることで体本来の治癒力が働いて、心の疲れを癒やすことができます。
がんばり屋の人ほど、「何か効果的に休養できるやり方を見つけよう」なんて策を練ってしまうものですが、パソコンの調子が悪くなったとき、あちこちいじるよりも再起動させるのが効果的だったりするのと同じで、まずは休息です。
注意点は、情報からもしっかり距離を置くことです。
人から距離を置いておきながらネットに没頭していたら、感情を動かされっぱなしでかえって精神疲労が増してしまいます。ここで、うつ病の人の引きこもりについても触れておきましょう。
うつ病の人も心が疲れた結果、引きこもりモードになるのですが、病気から復活するときに、人に会うことや、社会に出るのが怖くなるという事態に直面しがちです。でもこれは、がんばって克服しないといけない試練なのです。
ずるずると長期化するのを避けるためには、気力が出てきた段階で、「エイヤッ!」と立ち上がる勇気を持ってください。
面倒だけど、生身の人間と関わって感情をすり減らしながらやっていくしかないのが現実の社会です。疲れたらまた引きこもればいい。「引きこもることができた」のは大事な能力です。それができず、追い詰められて死を選んでしまう人もいるのですから。
いつだって家に帰って来られる。そう思えば、人や社会を怖いと思う気持ちはずいぶん和らぐはずです。
(1)昼夜リズムは崩さずしっかり眠る
引きこもりたくなるほど疲れ果てている自分を認めてやりましょう。あれこれ計画を立てず、眠ることを最優先にしましょう。でも、昼夜のリズムはできるだけ崩さないように。日中起きている間は植物や動物に触れたり、ゆったりと「引きこもりに集中」することが、結果的に心身の復活を早めます。
(2)情報の洪水から距離を置く
人と直接やりとりするのはつらい、でもさびしい。そんなときにメールでやりとりできるような“薄い付き合い”があると、孤独感が和らぎます。ただ、ネットから情報を取り入れすぎると不必要に感情を揺さぶられ、かえって心の疲れが悪化することもよくあります。情報からは一定の距離を置くのが基本です。
(3)復活する勇気も忘れない
長く引きこもりすぎると人が怖くなり、社会に戻るのが怖くなることもあります。3日から1週間ほど引きこもったら、思い切って復活する勇気を持ちましょう。生身の人間と触れ合い、怒ったり傷ついたりしながら生きていくしかないのが現実社会。つらくなったらまた引きこもればいいんです。
(まとめ:柳本 操=フリーライター)
『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載
メンタルレスキュー・シニアインストラクター

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腹が立ったとき、つらいとき、不安なとき、自分の心の扱い方を知っていますか? 私が陸上自衛隊の心理幹部として隊員たちに伝えてきた怒りや絶望などの「生々しい感情との向き合い方」は、すべての現代人に役立つものです。悩みの大部分は、人間が「原始時代だったころ」を想像してみると、解決のヒントが見えてきます──「はじめに」より
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