日経グッデイ

自分のこころのトリセツ

「自分を責めてしまう」 こんなときどうする?

「7対3バランス」を意識し、自分の弱さを受けいれる練習を

 下園 壮太=メンタルレスキュー・シニアインストラクター

周囲から「もう十分、がんばれているよ」と言われても納得できず、「まだがんばりが足りない、こんなんじゃダメ」と思ってしまう人がいます。自分に常にダメ出しをしている人は”子どもの心”が強すぎる状態。ダメな自分も認めて、ほどほどをよしとする”大人の心”の出番も必要です。

困難に直面したとき、「もっとがんばれるはずだ」と自分自身にムチを打っていませんか。(©gajus-123rf)

 困難に直面したとき、あなたはいつもどう対処するでしょうか。自分のがんばりが足りないせいだ、どこか悪いところ・反省すべき点があったはずだと、さらに自分にムチを打ってはいないでしょうか。

 ある目標を達成するには、以下の2通りの方法があります。

 「自分の能力レベルを高めること」と、「目標のレベルを下げること」。目標レベルを下げるなんてとんでもない、と思う人も多いでしょう。目標に向かってとことん頑張る、あきらめてはならない。そんな考えが「子どもの心の強さ」です。

 この先どんな環境に身を置くかもわからない子ども時代は、能力を高めることが生き残るための最大の戦略でした。実際に、やればやるだけ達成感が得られる時期です。縄跳びの練習をすれば記録は伸び、勉強すれば知識も増える。やればできるという成功体験を積んで世の中への安心感を得ていくことは、子ども時代に大事なことです。

 ところが、大人に近づくにしたがって「がんばってもクリアできないことがある」と気づき始めます。たとえば、受験。がんばっても合格するとは限りません。そして、恋愛。どんなに策を練っても思いが報われる保証はない。複雑な人間関係に惑わされることも増えてきます。理不尽な思いをし、“プチ挫折”を繰り返すうちに、畑を耕すようにゆっくり育ってくるのが「大人の心の強さ」です。

 プチ挫折をしたとき、傷つくけれど「大丈夫、自分には合わなかっただけだよ」と自らを励ますことができるのが、大人の心の強さです。本来、挫折を味わう中で自然に身につけることができるのが大人の心ですが、最近は社会全体に「困難を事前に避けようとする」雰囲気が強まり、プチ挫折を体験する機会を奪われることによって、大人になって初めて大きな挫折を経験する人も多いようです。

 大人になって初めての挫折となると、立ち直りには多大なエネルギーを使います。思春期なら、受験に失敗しても失恋しても、落ち込みはするけれど立ち直りは結構早いものです。ところが、30代になって初めて失恋、離婚、退職といった挫折に遭遇すると、痛手は大きいもの。社会全体が恐怖の対象になり、引きこもってしまう人もいます。

理不尽な社会を生きるには大人の心の強さが必要

弱ったときにあなたを守ってくれるのは“大人の心の強さ”。(©bowie15-123rf)

 大人の心を育てそびれると、困難に遭遇したときに「自分のがんばりが足りないからだ」と、子どもの心でさらにがんばろうとします。結局は疲れ果て、傷口が大きくなるのに。よく「ここであきらめたら、人生、どこに行ってもダメだから」なんて言う人がいますが、もう大人なんだからそんなにこの先、どこにも行かないよ、と私は言うのです。弱ったときにあなたを守ってくれるのは、こうした大人の心の強さです。

 実際、この社会は子どもの心だけで渡り歩けるほど単純ではなく、厳しくて理不尽なことだらけです。生き抜いていくには、そこそこ自分を認め、必要とあらばこまめに方向変換できる、大人の心のしぶとさも用意しておかなくてはなりません。

 では、どう対処すればいいのでしょう。ここで、「7対3バランス」の考え方の出番となります。

 子どもの心は向上心の源で、大人の心は自分を認めるおおらかさ。どちらもあなたを守っている、大切な感情です。でも、常に自分にダメ出ししている人は、子どもの心が「9」で、大人の心が「1」と、バランスが非常に悪い。だったら、少しだけ調整して7対3ぐらいにしてみようよ、というのが私の考え方です。9対1を7対3にするぐらいなら、「できるかも」と思えますね。

 たとえば職場に苦手な人がいて、うまく対応できなかった。「今日も結局イライラして厳しい言葉を返してしまった」と自分だけを責めるのは、子どもの心です。

 でも、「嫌でいいよ。苦手な相手なんだもん、仕方ない。よくやっているよ。明日はもう少し言葉を工夫しよう」と認められるのが、大人の心。これでちょうど、子どもが「5」、大人が「5」ぐらいのバランスに整いました。

 自分にダメ出ししている人は、まずは弱い自分をよしよしと受けいれる練習をしましょう。自分を責めそうになったら、すかさず大人の心に出てきてもらう。意識して繰り返すうち、自然にバランス力が整ってきます。自分を認める方法を学んだ心は、しなやかで強いのです。

[まとめ]「自分責め」モードが高まったら、大人の心の出番です
(1)どうにもならないことがあることを認める

「がんばりが足りない」と自分を責め、なんでも自分でコントロールできるはず、と思いたい気持ちはわかります。しかし、現実の社会はもっと理不尽です。自分の力が及ぶことと、どうしても及ばないことがある事実を認めましょう。

(2)目標レベルを下げてみる

間違いを許さなかったり、常にいい結果を出さないとダメだと思ったり…。うまくいかないときは成長へと駆り立てる「子どもの心」が強くなっていないか、見直してみましょう。自分のがんばりをそこそこ認め、達成できそうなレベルに目標を下げてみるなど、臨機応変に対応できるのが、「大人の心」です。

(3)7対3バランスに調整する

子どもの心の強さにこだわる人は、「これからは大人の心に変わろう!」と、「9対1」からいきなり「1対9」に変わろうとしてしまいます。しかし、現実的なのは「7対3」ぐらいのバランスです。がんばり屋の自分をしっかり認めながら、とらえ方を少しだけ変えてみる。このぐらいがうまくいきやすいのです。

(まとめ:柳本 操=フリーライター)

『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載


下園 壮太(しもぞの そうた)
メンタルレスキュー・シニアインストラクター
下園 壮太(しもぞの そうた) 1959年鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)シニアインストラクター。2009年に第8回「国民の自衛官」に選ばれる。「学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ」(日経BP社、2013年9月発行)などの著書がある。

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