日経グッデイ

自分のこころのトリセツ

「人に頼ることが苦手」こんなときどうする

「人に頼ろう」と素直に思える人は、窮地に強い人

 下園 壮太=メンタルレスキュー・シニアインストラクター

トラブルが生じたときに「何が何でも自分で乗り越えなきゃ」と思っていませんか? 何でも一人でやらなくては、と抱え込むのは、本当の意味での“大人”になりきれていない証拠。小さなことから「人に頼る練習」をはじめてみませんか?

現代社会では、助け合いの良さを実感したり、謙虚さを学ぶ機会が失われている
現代社会では、助け合いの良さを実感したり、謙虚さを学ぶ機会が失われています。(©Sergii Gnatiuk-123rf)

 人は一人で生きていくことはできないと、頭ではわかっているつもりでも、人に助けを求めるのが苦手な人も少なくありません。

 人に頼むくらいなら自分でやってしまったほうが楽だ、そうやって一人で抱え込んだ結果、イライラし、疲れ切ってしまうこともあります。

 そもそも人間は、本能的に「助け合いながら生きてきた」生き物です。

 単独で戦うのではなく、集団で、しかもコミュニケーションをとった連携プレーで大型の獣を倒してきたのです。だから、逆に言うと単独では非常に弱い。このような「助け合うことが前提」のプログラムが、私たちの本能には備わっています。

 なのに、どうして素直に人に頼ることができないのでしょう。

 その背景には私たちが幼いころに身につけた「子どもの心の強さ」が関係しています。日本人の精神風土には、農耕社会の考え方が色濃く影響しています。田植えも稲刈りもみんなで作業し、収穫を待つまでの期間も長い。その間、集団は一人ひとりが「ちゃんと努力しているか、さぼっていないか」を常にチェックし合います。達成した結果より、人に迷惑をかけなかったことが評価される社会に出ていく子どもに向かって、大人は一人でがんばれ、逃げるな、と成長期に言い続けます。

 その一方で、厳しい現実社会では、一人では生きていけないし、頼り合うことも大切です。「一人でがんばる」と「ピンチでは助けを求める」のバランスを、かつての日本では大家族や地域社会のつながりの中で自然に学ぶことができていました。しかし、現代社会ではそのような経験が極端に減り、助け合いの良さを実感したり、謙虚さを学ぶ機会が失われています。

落ち込みから浮き上がるときが「変わりどき」になる

 子どもの心の強さでがんばってきた人は、人に迷惑をかけない自分、逃げない自分が好きです。

 ただ、問題なのは、そういう人はトラブルに直面すると弱い、ということ。なぜなら、人に頼ることが苦手だからです。

 いざ人に頼ろうとしても、相手がうまくやってくれるか不安だし、「自分は逃げているのではないか」と罪悪感を覚えてしまいます。本当は周囲と助け合ったほうがよほど大きな力になるのに、なかなか一歩が踏み出せないのです。

 状況に応じて上手に人に頼り、サポートを求められることこそ「大人の心の強さ」です。とはいえ、頭でわかっても実行するのはなかなか難しい。自分が自信をつけてきたやり方を手放すには、勇気が必要だからです。

 ましてや、疲れ切って気持ちもダウンしているときには、チャレンジする気力もわかないでしょう。しかし、ちょっと元気が出たときこそチャンスです。

 人間には「変わりどき」があり、そのタイミングこそ、すごくしんどかった時期から浮上し始めたときなのです。

 やっぱり一人だと苦しかったなあ、という生々しい記憶があるうちに、「大人の心の強さを身につける修行だ」と思って、小さいことから始めてみるといいでしょう。

 誰にも頼らずがんばってきた人が、他人にものごとを頼むのは苦痛を伴うでしょう。説明するくらいなら自分でやりたい、と思うでしょうが、一人では必ず、行き詰まるときがきます。

 たとえば、ネットにつながっていないパソコンは「スタンド・アローン」と呼ばれます。その名の通り、自立している感じはありますが、ネットにつないだパソコンと比べるとその能力はきわめて限定されてしまいます。確かに、パソコンをネットにつなぐのは、最初は面倒くさいもの。しかし、LAN、プロバイダー、と1個1個クリアすれば、なんとかネットにつなげられるものです。それと同じと考えてください。

 ちょっと元気が復活したときであれば、人に頼んだ結果が自分の思い通りでなくても、それほど落胆や負担を感じずに対処することができるでしょう。

 小さなサポートを頼む経験を繰り返すうちに、頼むことでかえっていろいろなことがうまく回ることに気づき、素直にお礼の気持ちを伝える爽快感を得られるなど、いいところもたくさんあると肌で感じられるはずです。

 つらくなったら、誰かに頼ればいい。そう素直に思える人は、本当のところで窮地に強い人なのです。

[まとめ]少し元気が出たら人に頼る練習を。小さなことから始めよう
(1)「変わりどき」を逃さない

落ち込んでいるときはエネルギーが不足している一方、調子が上々のときは今のやり方を変える必要性を見いだせないものです。落ち込みから浮上したときこそ、「今までのやり方を変えてみる」ベストのタイミングです。「変わりどき」を逃さずに、人に頼る練習を始めましょう。

(2)小さいことから頼ってみる

いきなり人に「この先の私の人生、どうすればいいでしょうか」などと重たい相談を投げかけるのはNG。「外に出るついでに、飲み物を買ってきてくれない?」などという程度の、ごく小さなことから人に頼る練習をしてみましょう。一度ではなく、繰り返していくことが大切です。

(3)やり方をすべて変えなくてもいい

がんばり屋の人ほど「これまでとはやり方をすべて変えなくては!」と極端に考えてしまうものです。しかし、人に頼るのが下手な子どもの心の強さは「がんばる心」として持っていてOK。子どもの心、大人の心、両者をバランスよく育てていきましょう。

(まとめ:柳本 操=フリーライター)

『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載


下園 壮太(しもぞの そうた)
メンタルレスキュー・シニアインストラクター
下園 壮太(しもぞの そうた) 1959年鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)シニアインストラクター。2009年に第8回「国民の自衛官」に選ばれる。「学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ」(日経BP社、2013年9月発行)などの著書がある。

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