日経グッデイ

自分のこころのトリセツ

「失敗から立ち直れない」こんなときどうする

回避できることは3割、予測不能なことは7割と考えてみる

 下園 壮太=メンタルレスキュー・シニアインストラクター

一度の失敗が、次の失敗を恐れさせる原因になることは誰にでもあります。くよくよ考えるうちに「自分を責める」スイッチが強く入ってしまい、自信を喪失させる引き金になってしまうことも。しかし、準備や努力によってコントロールできることはわずかで、ほとんどが自分の力ではどうにもならないことなのです。失敗にとらわれてくよくよする気持ちが晴れないときは人に頼ってみるのも一つの手です。

失敗してくよくよ悩んでいる様子。
失敗してくよくよ悩むことは誰にでもある。(©jochenschoenfeld-123rf)

 失敗をしてしまったとき、終わったはずの出来事をくよくよと考え続けたり、プレッシャーでがちがちになって再び同じような失敗を繰り返してしまったりすることがあります。こんなとき、どのように気持ちを立て直していけばいいのでしょう。

 まずは、失敗したショックを引きずり、また同じことをやってしまうというメカニズムについて考えてみましょう。

 人間がショックを受けると、本能は「命を守るために、次の対策を立てよ」というメッセージを送ってきます。

次の失敗を恐れすぎると「攻撃から身を守ること」に意識が向く

 このとき、その対処に集中できるならば問題はありません。ところが、次の失敗を恐れすぎると「また失敗したら、周囲から非難される」という不安のほうが大きくなってしまいます。すると本能は、これからやる作業についてではなく、「失敗した後の攻撃から自分の身を守る」ことを最優先して考え始めてしまうのです。

 その結果、肝心の作業に集中できず、失敗を繰り返すという悪循環にはまってしまう。ゴルフで「池に入るな、入るな」と思うほど池のほうに打ってしまうと言いますね。仕事や人間関係においても同じことが起こってしまうのです。

 失敗したことをくよくよ考えるうちに「自分を責める」スイッチが強く入ってしまうこともあります。特に、努力すればするほど成果が出る、と思っている人はこの傾向が強いのです。「結果は常に自分でコントロールできる」という強い思い込みがあることが災いし、失敗したこともすべて自分のせいにしてしまう。しかし、すべて自分が悪かった、と考えるのはつらいことです。一気に自信を失う原因になります。

 実はカウンセラーも、この壁に突き当たりやすいのです。何年も懸命に勉強したのに、カウンセリング結果がうまくいかなかったとします。すると、「自分はカウンセラー失格だ」と落ち込んでしまいます。しかし、客観的に何が失敗要因だったのかを考えてみると、そもそも相手との相性が悪かったとか、自分の能力ではどうにもならないことが結果に影響していたんだな、と気づくこともしばしばあります。

自分にバツをつける回数を減らしていこう

 これまでにも「7対3バランス」という考え方をお話ししてきました。

 何かを行うときに、準備や努力でコントロールできることを「3」とすると、どうにもならないことが占める割合は「7」ぐらいある、と私は考えています。

 それほど現実社会は予測不能なことだらけなのです。

 だからといって、努力を放棄するわけではありません。努力するときは最善を尽くす。でも、結果を評価するときに、7対3バランスで考えるのです。つまり、30点とれれば自分の最低限の責任は果たしたと考えるのです。このように、自分に〝×〟をつける回数を減らすことこそが、自信を育てていくコツといえます。

 それでも失敗したことをくよくよと思い返し、気持ちを切り替えられないときには、誰かの発想を借りてみましょう。事情を把握している同僚よりも「まったく専門外」の人に話をするほうが、意外に効果的なものです。気楽なアドバイスをもらえて、肩の力がすっと抜けるかもしれません。

 さらに、次への不安や、失敗したことへの後悔で心と体ががちがちになったとき、すごく効果的なのが、深呼吸をすることです。深呼吸なんてあまりに当たり前すぎて、本当? と思うかもしれませんが、実は自衛隊のメンタルトレーニングでも必ず実践してもらっているものです。

 試しに、8割の力で全身にぐーっと力を入れてみてください。さあ、このとき息はどうでしょう? 止まっているはず。次に、今と同じように全身に力を入れ、そのまま息をしてみましょう。目をつぶり、深呼吸していることだけに集中してみると、どうですか? 体の緊張は同じでも、心には少し余裕が生じているはずです。

 このように、深呼吸には、防御態勢にある心身の緊張をほぐす大きな力があります。少し冷静になることによって、失敗要因を客観的に分析できるようになり、次にやるべき対処法が見えてくる。すると、ふくらみすぎていた不安が、正当なレベルの不安に戻ります。もう大丈夫。あなたは失敗を乗り越えるスタンバイ態勢になったということです。

 一気にすべてを解決しようとせずに、課題をできるだけ「細かく切る」のも大事です。できることから一つずつ、対処していきましょう。

[まとめ]失敗から立ち直りたいときは、冷静に失敗要因を分析しよう
(1)まずは深呼吸して冷静さを取り戻す

失敗してドキドキしたり、不安で押しつぶされそうになったりしたときには、深呼吸することに集中してみましょう。「このように呼吸しなければ」などと考えると緊張がほぐれないので気をつけてください。ただ繰り返し深呼吸することに意識を向けます。気持ちが落ち着くまで、しばらく繰り返します。

(2)「7対3バランス」で失敗要因を評価する

すべて自分のせいだ、と自分を責めそうになったら「7対3バランス」を思い出しましょう。自分の対策不足が直接の失敗要因であることは3割ぐらいで、7割ぐらいは「自分の能力ではどうにもならないこと」である場合が多いのです。この事実を客観視できれば、自信を回復しやすくなります。

(3)次の対策は細かく切って一つずつ実践

気持ちが落ち着いたら、次に同じことで失敗しないように対策を立てることも大事です。自分がやるべきことは何かを考え、それをさらに簡単にできるよう、細かく切り分けましょう。簡単なことであれば、すぐにとりかかることができるはずです。一つずつ実行するうちに、不安も徐々に減っていきます。

(まとめ:柳本 操=フリーライター)

『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載


下園 壮太(しもぞの そうた)
メンタルレスキュー・シニアインストラクター
下園 壮太(しもぞの そうた) 1959年鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)シニアインストラクター。2009年に第8回「国民の自衛官」に選ばれる。「学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ」(日経BP社、2013年9月発行)などの著書がある。

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