日経グッデイ

自分のこころのトリセツ

「休みたいのに、休めない」こんなときどうする?

周囲の理解を得れば堂々と休むことができる

 下園 壮太=メンタルレスキュー・インストラクター

ひと昔前と違い、携帯電話や電子メールなどから常に追われて生活している私たち。いつでも連絡が入るから気が抜けない…そんな状況では、本人も気付かないうちにエネルギーを消耗し、疲労をため込んでいってしまいます。すると、休みたいのに「休めない」「休むなんて周りに人には言い出せない」と思うようになってくるもの。しかし、そのような時こそ、休息が必要です。周囲の理解を得た上で“真の休息”を取れるように心がけましょう。

「休んだほうがいいんじゃない?」と言われたら何と答えますか。(©THEERAVAT BOONNUANG-123rf)

 がんばっているのに物事がうまく回らない。疲れもたまってきたし気分も落ち込みがち。そんなときに身近な人から「休んだほうがいいんじゃない?」とアドバイスされたら、あなたならどう答えるでしょうか。

 「うん、ちょっと休んでみようかな」と言えるなら、ひとまず大丈夫。でも、うつっぽくなるにしたがって、人は「いや、休めないよ」と言い始めます。今休んだらクビになる、信頼を失ってしまう。休むなんてありえない、と思い込むのです。

 うつ状態といえば、食欲低下や不眠などの症状が知られています。実はそれ以外にも、うつの人が社会に出ることで表面化する症状があり、私はそれを「うつの社会的症状」と呼んでいます。その代表格が「休めない」こと。加えて「対人恐怖」も強くなり、「休むなんて、とても周囲の人に言い出せない」と考えてしまうのです。

 現代人のうつ状態の8割以上は「知らないうちに積み重なった蓄積疲労」が原因、と私は考えています。特に、引っ越しや異動などで環境が変化すると、自分では気づかないうちに疲労がたまっていきます。しかも現代がひと昔前と大きく異なるのは、携帯電話やネットなどから膨大な情報が絶えず入ってくること。いつでも連絡が入るから気が抜けないし、ネットの情報はちゃんとフォローしておかないと乗り遅れてしまう。情報にさらされるということも、思った以上にエネルギーを消耗するのです。このような環境下で、ゆっくりとうつに進行していく人が増えています。

 さまざまな年代の中でも、若者が休めない理由にはもう一つ、「焦り」が関わっています。たとえば10歳の子にとっての1年間は、生きてきた年月の10分の1に値します。そう考えると、50歳の人間が考える「1年間」よりも、若い世代の1年間ははるかに濃いのです。そんな若い世代にとって、1~2カ月休むことが、「キャリアを失う」という不安に直結するのは必然ともいえます。

“はしゃぎ系ストレス解消法”では疲れが回復しない

 このように「休めない病」と言い換えることもできるうつ病ですが、近年、うつ症状を訴えて会社を休み、海外旅行などに出かけてしまう「新型うつ(非定型うつ)」が話題になっていますね。私はこの新型うつも、休み方を間違えていることから状況を悪くしているのではないかと思うのです。

疲れているとき、調子が悪いとき、まず3日間しっかり休むことをお勧めします。(©bowie15-123rf)

 疲れたな、調子が悪いな、と思うと、だいたい35歳以上の年代ではシンプルに休息をとろうとするのに対して、それよりも若い世代は、異性と遊ぶ、スポーツに熱中する、旅行をするなど、さらにエネルギーを消耗するようなことをしてストレスを発散しようとすることが多いようです。これを私は“はしゃぎ系ストレス解消法”と呼んでいます。楽しい休日を過ごしている間は「復活した」と思えても、たまっていた疲れは解消していないので、休日開けは逆にうつ症状がひどくなり、再び休暇を求めるようになってしまいます。

 しかし、これでは「会社を休んで海外旅行に行っているのに、なにがうつだ」と周囲からは理解を得られません。新型うつの場合、「休みたい」と主張しすぎるあまりに、かえって周囲からのサポートを失う結果になる。これも非常に問題です。

 うつの人も新型うつの人も、消耗しているのは同じ、休むことが大切なのも同じです。そこで私が提案したいのが、周囲の反発を買わない休み方です。

 まず、「休みたい」という切実な思いを誰かに相談しましょう。周囲に気持ちを表現することは「休みやすい」環境作りのためにも必要です。事態が一歩前に進むこともあります。

 農耕民族の日本人は、集団から嫌われると生きていけない、と本能的に感じています。だから自分から周囲に「休む」とは言い出しにくい。でも、周囲の理解を得られれば、堂々と休むことができます。新型うつの人も、周囲の理解を得て、“はしゃぎ系”ではなく本当の意味で休息をとることが大切です。

 疲れているとき、調子が悪いとき、私は「3日間コースで休む」ことを勧めます。これは、軍隊で心を病んだ人に対して、まずは3日間の休息を与え、しっかり睡眠と食事を与える、という方法からきた考え方です。

 うつになった人は自らを「ダメな人間」と責める傾向にありますが、私には「うつは悪い」という感覚はまったくありません。むしろ、「ブレーキをかける時期だよ」と知らせてくれるありがたいサインだと受け取ったほうがいいんです。ときには休息をとりながら、ゆっくり進んでいきましょう。

[まとめ]心身を休めるには最低3日間、のんびり過ごす
(1)抱え込まずに誰かに話してみる

疲れたなと思ったら、誰かに相談してみましょう。意外に「今の時期なら休めるんじゃない?」「職場の○○さんに仕事の調整を相談してみたら?」といった現実的な対処法を提案してもらえたりして、状況が前に進むかもしれません。つらい状態で歯を食いしばるだけがベストの選択ではありません。

(2)手順を踏んで、休める環境作りを

周囲の理解を得られないまま休むと、かえって不安や焦りが強くなり、「休んだはずなのにまったく気が休まらなかった」とか、職場から孤立した、という結果になりかねません。少しずつ根回しを進め「安心して休みなさい」と言われる環境を作ってこそ、ストレスから復活する休み方ができます。

(3)3日間コースで休む。“はしゃぎ系”は×

金曜に休み、土日を足して合計「3日間」を確保。3日間の休息は軍隊でも取り入れられている方法で、「疲れ切った心身を休めるには最低3日間は必要」というのが基本的な考え方です。徹夜、スポーツに熱中、旅行に出かけるといった“はしゃぎ系ストレス解消法”は避け、ひたすら眠る、のんびりと過ごすなど、休息に徹しましょう。

(まとめ:柳本 操=フリーライター)

『学校では教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社、2013年9月発行)より転載


下園 壮太(しもぞの そうた)
メンタルレスキュー・インストラクター
下園 壮太(しもぞの そうた) 1959年鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。1999年より陸上自衛隊初の心理幹部として、多くのカウンセリング経験を積む。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)インストラクター。2009年に第8回「国民の自衛官」に選ばれる。「学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ」(日経BP社、2013年9月発行)などの著書がある。

『学校では絶対に教えてくれない 自分のこころのトリセツ』(日経BP社)好評販売中

 腹が立ったとき、つらいとき、不安なとき、自分の心の扱い方を知っていますか? 私が陸上自衛隊の心理幹部として隊員たちに伝えてきた怒りや絶望などの「生々しい感情との向き合い方」は、すべての現代人に役立つものです。悩みの大部分は、人間が「原始時代だったころ」を想像してみると、解決のヒントが見えてきます──「はじめに」より

>>詳しくはこちら(Amazonのページにジャンプします)

日経グッデイ春割キャンペーン