咳が長引くと体力を消耗し、自身も周りの人も不快な思いをします。「咳は肺に入った異物を追い出すための反応ですが、つらい咳を薬で抑えてしまうと、かえって長引かせる要因になりかねません」と幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは話します。漢方では、五臓六腑の1つである「肺」の機能を調節して、咳を鎮めていきます。
「かぜをひいたあと、咳だけが残っています。とくに夜、布団に入ると咳が出ます。咳は、出始めると止まらなくなり、なかなか眠れません」
埼玉県に住む46歳の男性のケースです。1カ月ほど前にかぜをひき、現在は熱や鼻水などの症状は治まったのですが、咳が完治しないと言います。夜ほどではないものの、 日中も激しい咳が続けて出ることがあるそうです。咳のせいか、のどがよく渇き、粘り気のある黄色い痰(たん)が出ると話していました。舌を見ると赤い色をしており、そこに黄色い舌苔(ぜったい)が付着しています。
病院で胸部レントゲン検査をしても異常は認められず、かぜのあとの気管支炎でしょう、ということでAさんは咳止めなどの薬をもらいました。薬を飲むと少し楽になりますが、飲むのをやめるとすぐに咳がぶり返すようです。
かぜのあと、咳だけが長引いて残る人は少なくありません。気温の低下や空気の乾燥も咳に影響を及ぼします。ちょっとした咳でも不快なものですが、咳き込むことが続くようになると、それはつらいものです。満員電車の中やコンサートの最中に咳が止まらないと、周りの人に不快な思いをさせてしまいます。
咳がなかなか治らない、あるいは繰り返し出るようなら、肺の機能が落ちている可能性があります。咳は思いのほか体力を消耗します。早めに対策をとりましょう。
体の内側にある咳の原因を治す
咳はそもそも、かぜを引き起こすウイルスや細菌、あるいは冷気、乾燥した空気、ほこり、花粉、タバコの煙など、人体にとって都合のよくないもの(異物)が肺に入ったときに、それらを風圧により、体の外に追い出すための反応です。肺への異物の侵入を防ぎ、気道にたまった異物を取り去ってくれます。咳は本来、自分の体を守るために出ている生体防御反応です。
一般にかぜは呼吸器の感染症を指しますが、咳止めなどの薬で咳を抑えてしまうと、かえってかぜを長引かせかねません。咳を鎮めると体は楽になりますが、その間に異物が肺に入り込んで病態を悪化させてしまうからです。体を楽にする対症療法に病気を長引かせる可能性があるとは、まさに薬は諸刃の剣といえます。慢性的な咳に悩まされている場合は、つらい咳を抑えると同時に、呼吸器を丈夫にし、咳を根本的に治していく努力も必要です。
漢方では、咳を原因によって「外感(がいかん)」と「内傷(ないしょう)」に分類します。外感の咳は、乾燥した空気や冷えた外気など、外界のものが呼吸器に侵入したことが刺激になります。一方、内傷の咳は、体の中にある病気を引き起こす要因(疲れや機能低下などの病邪)が、肺に至ったことがきっかけになります。
長引く咳や、繰り返し出る咳のほとんどは、内傷の咳です。漢方薬は、体質を強化して内傷の咳を治療するときによく使われます。