日本人の死因のトップとなっている「がん」。今や日本人の2人に1人ががんにかかる時代です。がんの代表的な治療法の1つ「放射線治療」では、脱力感、疲労倦怠感、貧血などの副作用や後遺症が出ることがあります。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、がんそのものの漢方治療と並行して、放射線治療による副作用の軽減や防止を目的にした治療も行っています。放射線治療時には、副作用に合わせて漢方処方を調整していきます」と話します。
「前立腺がんで放射線治療をしています。初めの頃は頻尿などの副作用がありましたが、この頃は残尿感や排尿痛があり、ときどき血尿が出ます」

Aさんは、口やのどがよく渇きます。便は軟らかく、ねっとりとしています。舌は紅く、黄色い舌苔が付着しています。
がんの放射線治療とは、がんに放射線を当て、がん細胞を破壊し、がんを小さくしたり消滅させたりする治療法です。患部に放射線を照射することにより、がん細胞内の遺伝子にダメージを与え、がん細胞を死滅させます。痛みやしびれを緩和するために行われる場合もあります。
放射線治療は局所的にがん細胞を破壊する力を持っていますが、同時に正常細胞に対しても作用するため、副作用や後遺症といった悪影響を及ぼすことがあります。みられることが多い副作用には、脱力感、疲労倦怠感、貧血、食欲不振、吐き気、皮膚の炎症(紅斑、かゆみなど)や乾燥、白血球や血小板の減少などがあります。照射部位によっては、口渇、口内炎、頻尿、排尿痛、腹痛、出血、下痢、血便、脱毛、浮腫なども生じます。
がんの放射線治療と関係が深いのは、熱邪
漢方では、がんそのものの漢方治療と並行して、放射線治療による副作用の軽減や防止を目的にした漢方治療も行っています。一般には、がんの治療や予防を目的に日頃から免疫力を高めるための漢方薬を服用しつつ、放射線治療時には、その副作用に合わせて漢方処方を調整するという方法をとります。放射線治療時にのみ漢方薬を併用する患者さんもいます。
治療に用いられる放射線は、がん細胞内の遺伝子(DNA)にダメージを与えることができる強いエネルギーを持っているので、多くの場合、熱邪(ねつじゃ)となって人体を侵し、副作用を生じます。熱邪は病気の原因(病因)のひとつで、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪です。炎症、化膿、熱感、発熱、充血、疼痛、出血などの熱証を表します。
熱邪には二つのタイプがあります。熱邪の勢いが盛んになって生じる実熱(じつねつ)と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足しているために(陰虚)、相対的に熱邪が強まって生じる虚熱(きょねつ)です。実熱の場合は熱邪を冷まし、虚熱の場合は陰液を補うことにより熱邪を治療するため、漢方では熱邪が実熱か虚熱かにより、そして熱邪が侵している部位や症状により、処方を使い分けます。