足の裏側やふくらはぎなどの血管が浮き出る「下肢静脈瘤」。女性に多い疾患で、立ち仕事をしている人、妊娠・出産を経験した人に多く見られます。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「この疾患のベースにあるのは、血流が鬱滞しやすい体質(血瘀証)です。漢方では、血行を促進する漢方薬などを用いて下肢静脈瘤の治療を進めます」と話します。
「3か月前に出産したばかりですが、下肢静脈瘤ができました。痛くも痒くもないので気がつきませんでしたが、膝の裏がみみず腫れのようにふくらんでいます。見た目が気になって短いスカートがはけません」

Aさんの下肢静脈瘤は妊娠する前はありませんでした。出産してからは痔にもなりました。妊娠前は強い月経痛に悩まされていました。若いころから肩こりがあり、出産後は子育てでさらに強く肩がこります。舌は紫色をしています。
下肢静脈瘤は、足(下肢)の裏側やふくらはぎなどの血管がふくらんで浮き出る疾患です。みみず腫れのように太く盛り上がったり、細い血管が蜘蛛の巣のように見えたりします。
足の静脈には、心臓に戻るべき血液が重力によって逆に足先のほうへ下がっていく(逆流する)のを防ぐための弁が内側に付いています。この弁が正常に働かなくなると、足の静脈内に血液が溜まり、静脈がふくらみ、下肢静脈瘤が生じます。
おもな症状には、外観的な美容面での異常のほかに、足のむくみ、重だるさが生じます。また血流が滞って鬱血するため、痛みや痒みも生じます。こむら返りなど、足がつりやすくなる人も少なくありません。湿疹や色素沈着が生じる場合もあります。
下肢静脈瘤は、男性よりも筋力が弱い女性に多く、妊娠を契機に発生する人もいます。職業としては、美容師、理容師、調理師、看護師、客室乗務員、教師など、立ち仕事を長時間する人に多くみられます。運動不足や肥満、加齢によっても生じます。
下肢静脈瘤と関係が深いのは、血瘀
この疾患のベースにあるのは、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。
血(けつ)は人体の基本的な構成成分のひとつで、全身を滋養する作用、およびその物質的基礎を意味する概念です。血液、あるいは血液が運ぶ栄養、または循環に近い概念です。量は多からず少なからず「適量」で、流れはどろどろではなく「さらさら」が、望ましい状態です。この血の流れが鬱滞しやすい体質が、血瘀証です。
静脈瘤は血流の停滞ですので、まさにこの血瘀の状態です。血瘀証は、精神的ストレスや、冷え、体内の水液の停滞、生理機能の低下などによって生じます。疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になる場合もあります。妊娠、出産によっても生じます。
漢方では、血行を促進する漢方薬などを用いて、下肢静脈瘤を治療します。