乾燥や水仕事により生じる「手湿疹(主婦湿疹)」。症状が軽い「手荒れ」も含め、手の肌の痒みや痛みで悩む人は少なくないでしょう。一般には炎症を抑えるステロイド外用薬や保湿薬が処方されます。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、手湿疹を血(けつ)と関係が深い疾患と捉えています。患者ひとりひとりや患部の証を考慮して処方を判断します」と話します。
「主婦湿疹で、手が荒れています。指先も手のひらも乾燥してかさつき、ひび割れが生じています」

Aさんの指先は乾燥してつるつるしており、皮膚が硬くなっています。病院で処方されたステロイド外用薬を塗ると症状は改善しますが、やめると再発し、湿疹の範囲が広がっていくので塗るのをやめました。手足が冷えます。舌は白く、白い舌苔が付着しています。
乾燥や水仕事により手の皮脂や角質が減ることにより生じる手の湿疹を「手湿疹」といいます。主婦に多くみられるので「主婦湿疹」とも呼ばれています。水とともにお湯や洗剤もよく使う美容師や調理師などの職業に携わる人にもみられることが多い疾患です。症状が軽い「手荒れ」も含め、皮膚の外観だけでなく、痒みや痛みなどの点でも悩む人は少なくありません。
はじめのうちは乾燥してかさかさしたり、皮膚が硬くなったりする程度ですが、次第に皮膚片がはがれ落ち(落屑)、小水疱やひび割れ(亀裂)が生じるようになり、慢性化すると、ざらざら、じくじくし、強い痒みを伴うようになります。指紋がなくなったり、爪が変形したりする場合もあります。
一般にこの湿疹は、合成洗剤などによる接触皮膚炎(かぶれ)の一種(進行性指掌角皮症)として捉えられています。それ以外には、痒みを伴う小水疱ができて皮がむける汗疱状湿疹や、膿がたまった水ぶくれ(膿疱)が手のひらや足の裏に多く生じる掌蹠膿疱症も、同じく手が荒れて手に湿疹が生じる疾患です。
西洋医学では皮膚の炎症を抑えるステロイド外用薬や保湿薬が一般に処方されますが、漢方では手荒れ・主婦湿疹(手湿疹)に対しても、患者ひとりひとりや患部の証を考慮して処方を判断します。
手荒れ・主婦湿疹(手湿疹)と関係が深いのは、血(けつ)
漢方では、手湿疹を血(けつ)と関係が深い疾患と捉え、治療しています。
血(けつ)は人体の基本的な構成成分のひとつで、全身を滋養する作用、およびその物質的基礎を意味する概念です。血液、あるいは血液が運ぶ栄養、または循環に近い概念です。量は多からず少なからず「適量」で、流れはどろどろではなく「さらさら」が、望ましい状態です。
血は、私たちが食べたものと、吸った空気とから作られます。健康な状態では、五臓六腑の働きにより、血は体内をくまなく循環し、皮膚を含む全身の組織や器官に栄養を与え、人体を滋養します。
とりわけ手湿疹と関係が深いのは、この血の滋養作用が衰えている状態です。これを「血虚(けっきょ)」証といいます。皮脂の分泌がわるく、皮膚が乾燥して薄くなり、かさつき、ひどい場合は、ひび割れ、あかぎれを伴うようになります。落屑や肥厚も生じます。
血虚証に対しては、漢方薬で血を補い、手湿疹を治していきます。体内から患部に栄養を行き渡らせるイメージです。